打刻は社長夫妻頼み、毎朝1時間はただ働き…3か月目に「使えない」と解雇

私は輸入タイルで、部屋のリノベーションやインテリア雑貨を作っている会社に勤めていました。
なぜそこに入社したかといいますと、ハローワークで提示されている正社員月給が、ほかの会社に比べてとてもよかったこと。もう一つは私がインテリアに興味があったからです。
まずは試用期間として、その土地の最低賃金の時給で三か月、働くことになりました。本当に正社員に登用されたら、給料が上がるのだろうか、という不安はありました。
まず、タイムカード。自分で押すことは許されず、社長か社長の奥様に頼まねばなりません。しかし、就業時間になっても二人は来ず、毎朝1時間はタダ働きになります。退社時は勝手に早めにタイムカードが押され、やはり何分かタダ働きとなります。
仕事は、雑貨制作を希望していましたが、なぜか倉庫勤務となり、朝から晩まで、倉庫内で発注されたものを仕分けしたりの日々でした。この倉庫の最大の問題は、古い建物で、アスベストが使われているということ。
昼時の休憩時間は、社内に社員の休憩スペースなどなく、公園か外食を余儀なくされます。
そして、社内の空気が悪くなる主たる原因は、社長の怒鳴り声です。女性社員に対しては平気で、ブス、オバサン、デブなどの暴言を吐き散らします。
3か月の試用期間中、我慢しましたが、もう限界でやめようと思っていたら、会社の方から「使えない」と言われ、解雇されました。
次々に入っては辞めていく周りを見て思ったのですが、どうやら会社は高い月給を提示して人を集め、試用期間が終わったらばっさり切る、を繰り返しているようです。
みんブラ事務局の所見:試用期間でも14日を超えれば解雇予告が必要。打刻を会社が握る職場では、手元の記録が唯一の武器になる。
試用期間でも、14日を超えて働けば解雇予告が必要である
この体験談で最初にお伝えしたいことがあります。
投稿者はこう書いています。
「3か月の試用期間中、我慢しましたが、もう限界でやめようと思っていたら、会社の方から『使えない』と言われ、解雇されました」。
ここで誤解の多い点を正します。
試用期間中は自由に辞めさせられる。
そう思っている方が多いのです。
ですが違います。
まず法的な性質から述べます。
試用期間は解約権留保付の労働契約と解されています。
つまりすでに労働契約は成立しているのです。
会社に残されているのは解約する権利だけです。
そしてその権利の行使には制限があります。
最高裁はこう示しました。
解約権の行使は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される。
通常の解雇より広い範囲で認められるとはされています。
ですが自由ではありません。
そしてここからが実務上重要です。
労働基準法21条4号をご覧ください。
この条文は解雇予告の規定を適用しない者を列挙しています。
その一つが「試の使用期間中の者」です。
ですがただし書きがあります。
14日を超えて引き続き使用されるに至った場合は、この限りでない。
つまりこうなります。
- 試用開始から14日以内の解雇 → 解雇予告は不要
- 14日を超えて働いた後の解雇 → 30日前の予告か30日分以上の解雇予告手当が必要
この方は3か月働いています。
ですから解雇予告手当の対象です。
そのうえで、全体を確認します。
- ハローワークの求人は他社より良い正社員月給だった
- 実際は最低賃金の時給で3か月の試用期間だった
- タイムカードを自分で押せなかった
- 社長夫妻が来ないため毎朝1時間ただ働きだった
- 退社時は早めに押され数分が消えた
- 希望と違う倉庫勤務に回された
- 倉庫にはアスベストが使われていた
- 社内に休憩スペースがなかった
- 社長が女性社員に容姿を侮辱する暴言を吐いていた
- 試用期間の終わりに「使えない」と言われ解雇された
- 同じことが繰り返されている様子だった
法律から見ると
試用期間の解雇と労働時間の把握がこの記事の二本柱です。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 3か月の試用期間の満了時に「使えない」と告げて解雇した。 | 労働基準法20条 21条4号ただし書 |
14日を超えて使用された者の解雇には30日前の予告か30日分以上の平均賃金の支払いが必要。違反は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。 |
| 解雇の理由が「使えない」という抽象的なものだった。 | 労働契約法16条 労働基準法22条 |
客観的に合理的な理由を欠く解雇は無効。労働者が請求すれば解雇理由証明書を遅滞なく交付する義務がある。 |
| 求人では正社員月給を提示し、実際は最低賃金の時給で採用した。 | 労働基準法15条1項 職業安定法5条の3 |
賃金・労働時間その他の労働条件を書面等で明示する義務。明示された条件と異なる場合、労働者は即時に契約を解除できる。 |
| タイムカードを本人に押させず、社長夫妻が代わりに打刻していた。 | 労働安全衛生法66条の8の3 労働時間の適正な把握のために 使用者が講ずべき措置に関する ガイドライン |
使用者は労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務。始業・終業時刻の確認と記録は原則としてタイムカード等の客観的記録による。 |
| 始業時刻を過ぎても打刻できず、毎朝1時間が記録されなかった。 | 労働基準法32条 24条 108条 |
指揮命令下に置かれた時間はすべて労働時間。賃金は全額払い。賃金台帳に労働時間数を記入する義務がある。 |
| 退社時のタイムカードを実際より早い時刻で打刻していた。 | 労働基準法109条 労働基準法120条 |
賃金台帳・出勤簿等の記録は5年間(当分の間3年間)保存。虚偽の記載や記録の改ざんは罰則の対象となる。 |
| アスベストが使用された古い倉庫で日常的に作業させていた。 | 石綿障害予防規則3条 労働安全衛生法22条 |
建築物の解体等の作業では事前調査が義務。令和5年10月から一定の建築物は有資格者による調査が必要。粉じん等による健康障害を防止する措置義務がある。 |
| 社内に休憩できる場所がなく、公園か外食を強いられていた。 | 事務所衛生基準規則19条 労働安全衛生規則613条 |
事業者は労働者が有効に利用できる休憩の設備を設けるよう努めるものとされる。 |
| 社長が女性社員に「ブス」「オバサン」「デブ」などの暴言を吐いていた。 | 労働施策総合推進法30条の2 男女雇用機会均等法11条 |
優越的関係を背景とした言動で就業環境を害する行為は禁止。性別に関する侮辱的言動はセクシュアルハラスメントにも該当し得る。事業主には防止措置義務がある。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
タイムカードを自分で押せない職場で起きること
この体験談で見逃せない仕組みがあります。
打刻を本人にさせないという運用です。
投稿者はこう書いています。
「自分で押すことは許されず、社長か社長の奥様に頼まねばなりません」。
結果はこうです。
- 就業時間になっても二人が来ず、毎朝1時間がただ働き
- 退社時は勝手に早めに押され、何分かが消える
これは偶然ではありません。
設計です。
ここで労働時間の適正な把握のためのガイドラインを確認します。
平成29年1月に策定されたものです。
ガイドラインは原則的な方法をこう示します。
- 使用者が自ら現認して記録する
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など客観的な記録を基礎とする
そして自己申告制による場合は、
実態調査を行い、必要に応じて補正することが求められます。
さらにガイドラインはこう釘を刺します。
時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の適正な申告を阻害する要因となっていないか確認すること。
この会社は阻害要因を仕組みにしていました。
そしてここが肝心なところです。
記録がなくても労働時間は消えません。
賃金の請求において、
タイムカードは証拠の一つにすぎません。
他にも証拠はあります。
- 入退館の記録・鍵の開閉記録
- 業務メールやチャットの送信時刻
- パソコンのログオン・ログオフ記録
- 本人がつけた手帳やメモ
- 交通系ICカードの利用履歴
- スマートフォンの位置情報履歴
とくに手帳やメモです。
裁判例でも継続的に記録された手帳の信用性が認められた例があります。
ですから申し上げます。
いま同じ状況にいる方は、毎日メモをつけてください。
会社のシステムに残す必要はありません。
自分の手元に残してください。
この会社を糾弾する
この会社のやり方を整理します。
投稿者は最後にこう書いています。
「どうやら会社は高い月給を提示して人を集め、試用期間が終わったらばっさり切る、を繰り返しているようです」。
これが事実であれば、
個々の違法行為の寄せ集めではありません。
ビジネスモデルです。
構造を分解します。
- 求人には相場より高い正社員月給を出す → 応募が集まる
- 実際は最低賃金の時給で試用 → 人件費が下がる
- 打刻を会社側が握る → 労働時間がさらに削れる
- 試用期間の満了で解雇 → 高い月給を払わずに済む
- また求人を出す → 最初に戻る
この循環が回る限り、
会社は常に最低賃金で人を使えるのです。
ですがこのモデルには弱点があります。
解雇予告手当です。
14日を超えて働いた人を即日解雇すれば、
30日分以上の平均賃金を払わなければなりません。
払わなければ労働基準法違反です。
そして付加金という制度もあります。
労働基準法114条です。
裁判所は解雇予告手当を払わなかった使用者に対し、同額の付加金の支払いを命じることができます。
つまり最大で2倍です。
次に社長の暴言です。
投稿者はこう書いています。
「女性社員に対しては平気で、ブス、オバサン、デブなどの暴言を吐き散らします」。
これは指導ではありません。
業務との関連が一切ありません。
そして女性社員に対してと書かれています。
ですからこれは、
パワーハラスメントであると同時に、
性別に関する言動でもあります。
厚生労働省の指針は環境型セクシュアルハラスメントの例として、
労働者に関する性的な内容の情報を流布することなどを挙げています。
容姿への侮辱を女性にのみ向ける行為も、
就業環境を害する言動と評価され得ます。
そして倉庫です。
「古い建物で、アスベストが使われている」。
ここは慎重に述べます。
アスベストは飛散しなければ直ちに危険とは限りません。
問題は劣化です。
古い建物で吹付け材が傷んでいれば、
繊維が空気中に出ます。
そしてアスベストによる疾患は潜伏期間が長いことで知られます。
中皮腫では30年から40年といわれます。
ですからいま症状がなくても安心とは言えません。
石綿による疾病は労災保険の対象です。
そして石綿健康被害救済法により、
労災の時効が過ぎた場合や労働者でなかった場合にも救済の道があります。
ですから申し上げます。
どの建物でいつ働いたかを記録に残しておいてください。
こういう会社は、今すぐ辞めていい
この方はすでに会社を離れています。
ですからこれからできることを申し上げます。
まず解雇理由証明書です。
労働基準法22条により、
労働者が請求すれば、使用者は遅滞なく交付しなければなりません。
ここに「使えない」としか書けなければ、
解雇の理由が具体性を欠くことが明らかになります。
次に解雇予告手当です。
即日解雇で支払いがなければ、
30日分以上の平均賃金を請求できます。
そして毎朝1時間の未払賃金です。
3か月でおよそ60時間になります。
退社時の数分を加えればさらに増えます。
これらは賃金請求権の時効当面3年の範囲で請求できます。
そしていまこの会社を受けようとしている方へ。
見分ける手がかりを三つ挙げます。
- 相場から外れて高い月給。 同業他社と比べて明らかに高い場合、試用期間の条件を必ず確認する
- 同じ求人が何度も出ている。 短い間隔で同じ職種の募集が繰り返されていれば、定着していない証拠になる
- 試用期間の賃金が書面にない。 試用期間中の賃金・期間・本採用の基準は労働条件通知書で確認する
そして最後にもう一度申し上げます。
試用期間は会社のお試し期間ではありません。
本採用を拒否するには客観的に合理的な理由が要ります。
そして14日を超えれば予告か手当が要ります。
この二つを知っているだけで、
「使えない」の一言で終わらせないことができます。
この体験談に近いケース
この体験談に近いケースとして、あわせて読まれている記事です。
- 「正社員」のはずが入社1週間前に契約社員へ。助成金目当ての実態。
- 手取り13万・保険なし。社会保険に入れてもらえない職場。
- 最後の賃金は請求から7日以内。金品の返還という条文。
- トイレの電気をつけてはいけない。職場環境を軽視する会社の実態。
この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。





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