暗唱に失敗したら海岸ランニング、最後は40キロ行進…資格が下りる前から営業

私が勤めていた会社は商品先物取引の会社でした。
入社式が終わったあとに、海の近くの研修センターに移動して新入社員研修をしました。ポケベルやPHSなどの通信機器は全て没収されました。
40日にわたって研修をしましたが、休日は一日もありませんでした。初見の社訓の暗唱に失敗すると怒鳴られ、罰として海岸をランニングさせられました。
研修のラストに40キロ行進というイベントをやらされました。5月半ばの湾岸地域を歩きました。手書きの地図を見ながらチェックポイントを通過しながら歩きました。社員は必ずこのイベントをクリアするという決まりがあり、脱落した社員は翌年に強制参加させられます。
「登録外務員」という資格者のみが先物取引の営業ができます。資格試験は新入社員研修のときに受験しました。早くても7月にならないと資格がおりません。新入社員として配属されたのは5月の下旬ですから、配属時は無資格です。にも関わらず、営業をしていました。
タウンページのページをバラバラにしたページを「架電リスト」として手渡されて電話を架けます。経営者か店舗責任者を呼び出して「低金利対策の一環として金投資を進めています」をしゃべり続けます。
多くの場合は断られます。怒鳴られることがあります。人によってはノイローゼになります。女性社員はストレスでニキビだらけになりました。
みんブラ事務局の所見:義務づけられた研修はすべて労働時間であり、40日間休日ゼロは労基法35条違反。無資格者に営業をさせた責任は会社にある。
資格が下りる前に営業をさせることは、法律が禁じている
この体験談には見過ごせない一文があります。
投稿者はこう書いています。
「早くても7月にならないと資格がおりません。新入社員として配属されたのは5月の下旬ですから、配属時は無資格です。にも関わらず、営業をしていました」。
これは労働問題であると同時に業法違反です。
説明します。
商品先物取引の勧誘を行う者は、
外務員として登録を受けなければなりません。
商品先物取引法200条です。
そして201条はこう定めます。
商品先物取引業者等は、登録を受けていない者に外務員の職務を行わせてはならない。
ここが重要です。
禁じられているのは会社の側の行為です。
行わせてはならないと書いてあります。
つまりこのケースで責められるべきは、
やらされた新入社員ではありません。
やらせた会社です。
そしてこの構造は他の業界でも同じです。
- 金融商品取引法64条 証券外務員の登録。登録を受けない者に外務員の職務を行わせてはならない
- 宅地建物取引業法35条 重要事項の説明は宅地建物取引士が行う
- 保険業法275条 登録を受けた募集人でなければ保険募集をできない
- 貸金業法12条の3 貸金業務取扱主任者の設置義務
いずれも資格者に限るという仕組みです。
理由ははっきりしています。
客の財産に直接関わるからです。
そのうえで、全体を確認します。
- 商品先物取引の会社だった
- 入社式の直後から合宿研修に入った
- 通信機器をすべて没収された
- 40日間休日が一日もなかった
- 社訓の暗唱に失敗すると怒鳴られた
- 罰として海岸を走らされた
- 最終日に40キロ行進があった
- 脱落者は翌年強制参加とされた
- 資格が下りる前に営業をさせられた
- 電話帳を破いた架電リストを渡された
- 怒鳴られることが日常だった
- 体調を崩す同僚が出た
法律から見ると
研修の労働時間性と無登録での勧誘がこの記事の柱です。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 外務員登録が下りる前の新入社員に勧誘業務を行わせていた。 | 商品先物取引法200条 201条 金融商品取引法64条 |
登録を受けていない者に外務員の職務を行わせてはならない。違反は業務改善命令・業務停止命令等の行政処分の対象となる。 |
| 40日間の合宿研修で、休日を一日も与えていなかった。 | 労働基準法35条 | 毎週少なくとも1回、または4週間を通じ4日以上の休日が必要。40日間で休日ゼロは明確な違反。6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金。 |
| 研修が会社の指示で義務づけられ、参加しない自由がなかった。 | 労働基準法32条 行政解釈 (昭和26年1月20日基収2875号ほか) |
使用者の指示により業務上義務づけられた教育・研修は労働時間。不参加が人事評価や賃金に影響する場合も労働時間と扱われる。 |
| 合宿形式で外出も通信も制限し、研修から離脱できない状態にしていた。 | 労働基準法5条 | 精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって労働者の意思に反して労働を強制してはならない。労働基準法で最も重い1年以上10年以下の拘禁刑等が定められている。 |
| ポケベル・PHSなどの私物の通信機器をすべて没収していた。 | 民法206条 労働契約法3条4項 |
所有者は所有物の使用・収益・処分をする権利を有する。同意のない私物の一律没収は権利の侵害となり得る。 |
| 社訓の暗唱に失敗した者に、罰としてランニングを課していた。 | 労働施策総合推進法30条の2 労働基準法91条 |
業務上必要かつ相当な範囲を超えた身体的・精神的な攻撃はパワーハラスメントに該当する。制裁は就業規則に定めた範囲でしか行えない。 |
| 5月に40キロの行進を課し、脱落者には翌年の再参加を義務づけていた。 | 労働契約法5条 労働安全衛生法3条1項 |
使用者は労働者の生命・身体等の安全に必要な配慮をする義務を負う。事業者は快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じ労働者の安全と健康を確保する責務がある。 |
| 電話帳を破いたリストを渡し、繰り返し勧誘の電話をかけさせていた。 | 商品先物取引法214条 | 勧誘に先立って勧誘を受ける意思の確認をしない行為は禁止。契約しない旨の意思を示した者への再勧誘も禁止されている。 |
| 怒鳴られ続ける環境で、体調を崩す社員が出ていた。 | 労働安全衛生法66条の10 労働契約法5条 |
常時50人以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務。心理的負荷による精神障害は労災認定の対象となる。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
40日間休みなしの研修は、労働時間である
ここは誤解の多い論点です。
研修だから労働ではない。
そう考える会社があります。
ですが違います。
判断の基準は参加しない自由があるかです。
行政解釈はこう整理しています。
- 参加しないことによって不利益がない → 労働時間でない場合がある
- 参加が義務づけられている → 労働時間
- 不参加が人事考課や賃金に影響する → 労働時間
- 業務に必要な知識・技能の習得が目的 → 労働時間とされることが多い
この方の研修はどうか。
入社式の直後です。
研修センターに移動させられています。
通信機器は没収されています。
参加しない選択肢はありません。
ですからすべて労働時間です。
そしてここからが本題です。
40日間です。
休日は一日もなかったのです。
労働基準法35条はこう定めます。
使用者は、労働者に対して、毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
例外は4週間を通じ4日以上の休日を与える場合だけです。
40日であれば、
少なくとも5日から6日の休日が必要でした。
ゼロです。
これは明確な違反です。
そして通信機器の没収です。
これも重い問題です。
ポケベルやPHSは私物です。
会社が一律に取り上げる権限はありません。
そしてそれ以上に重要なことがあります。
外部と連絡が取れないという状態です。
これは逃げ道を塞ぐことになります。
家族に相談できない。
友人に相談できない。
役所にも連絡できない。
その状態で40日間置かれる。
ここで労働基準法5条を引きます。
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
この条文の罰則は労働基準法の中で最も重いものです。
1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金です。
それだけ重大な行為とされているのです。
「脱落したら翌年もう一度」という制度について
この体験談でとくに印象的な一文があります。
「社員は必ずこのイベントをクリアするという決まりがあり、脱落した社員は翌年に強制参加させられます」。
ここには制度設計の思想が表れています。
考えてみてください。
体調を崩した人。
足を痛めた人。
持病がある人。
そうした人が脱落と記録され、
翌年もう一度とされる。
これは安全配慮の発想と正反対です。
労働契約法5条はこう定めます。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
この安全配慮義務は、
条文になる前から判例上認められていたものです。
そしてこれを怠って事故が起きれば、
損害賠償責任が生じます。
5月半ばの40キロ行進を考えます。
40キロはフルマラソンに近い距離です。
訓練を受けていない人が歩けば、
10時間前後かかります。
5月の日中はすでに気温が上がります。
そして体が暑さに慣れていない時期です。
この時期は熱中症が起こりやすいことが知られています。
さらに研修39日目です。
39日間休みなしの状態で40キロを歩かせる。
これは危険です。
そして罰としてのランニングも同じです。
厚生労働省のパワーハラスメント指針は、
身体的な攻撃の例としてこう挙げています。
- 殴打、足蹴りを行うこと
- 相手にものを投げつけること
そして過大な要求の例としてこう挙げています。
- 長期間にわたる過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること
- 新卒採用者に対し必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること
社訓の暗唱に失敗したことを理由に走らせる行為は、
業務との関連がありません。
そして無資格の新入社員に営業をさせることは、
まさに必要な教育を行わないままの状態です。
こういう会社は、今すぐ辞めていい
この方はすでに離れておられます。
そしていまこの体験を書き残されました。
まずいま合宿研修の最中にいる方へ申し上げます。
抜けて構いません。
理由を三つ挙げます。
- 退職は労働者の権利。 期間の定めのない労働契約は、申入れから2週間で終了する(民法627条1項)。会社の承諾は要らない
- 研修を受け切る義務はない。 研修の完遂が契約の条件になることはない。費用の返還を求められても労働基準法16条の賠償予定の禁止に触れる場合がある
- 体は取り返せない。 休みなしの40日と長距離行進は、倒れてからでは遅い
とくに二つ目です。
労働基準法16条はこう定めます。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
「途中で辞めたら研修費を返せ」という仕組みは、
実質的に退職を妨げる違約金と評価されることがあります。
そして連絡手段を取り上げられた場合です。
これは深刻です。
ですが手はあります。
- 返却を求める。 私物である以上、返還を請求できる
- 外出時に連絡する。 公衆電話でもコンビニでも構わない
- 家族に事前に伝えておく。 一定期間連絡が途絶えたら確認してほしいと頼んでおく
- 研修先の所在地を控える。 どこにいるかを誰かが知っている状態にする
次に無資格で営業をさせられた方へ。
不安に思われるかもしれません。
ですが先に述べたとおり、
法が禁じているのは会社の側の行為です。
そしてこの事実は監督官庁への情報提供の対象になります。
商品先物取引業は農林水産省と経済産業省の共管です。
そして日本商品先物取引協会にも相談窓口があります。
労働の面では労働基準監督署です。
休日の不付与も割増賃金の不払いも、
労働基準法違反だからです。
最後にこの方が書いた一文に触れます。
「人によってはノイローゼになります。女性社員はストレスでニキビだらけになりました」。
この一文は結果を語っています。
研修も行進も暗唱も、
会社は鍛えているつもりだったでしょう。
ですが実際に起きたのは心身の不調です。
そしてそれは本人の弱さではありません。
やらせた側の設計が誤っていたのです。
ここを取り違える限り、
同じことが毎年繰り返されます。
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