めまいと吐き気を訴えても作業は止まらない…熱中症対策が義務化された今も残る農場の運用

とある農業経営会社ですが、そこに入ると朝5時に集合し車で2時間かけて農場に移動します。野菜の入った段ボール箱をトラックに積み込む作業を繰り返します。かなり重いので力作業です。
初夏の時期の収穫作業ですが日中は炎天下になったりと、とても暑い時もあります。初日からこの作業を朝7時から夜6時までこなさなくてはいけません。
昼休憩一時間、3時に10分程の休憩以外は休む事は許されません。炎天下に体が慣れていませんし、重い段ボールを運ぶ力作業です。2、3時間でバテてしまいますが、それでも休む事は許されません。ペースが落ちたとしても、そのまま休まずに作業を続ける事を求められます。
もちろん作業中の給水や栄養補給は認められますが、決められた休憩時間以外は安静にして体力を回復をする事は認められていません。常に動き続ける事を求められます。
午後になるとめまいや吐き気といった熱中症の様な症状が現れる場合もありますが、それでも作業を中断する事は認められません。3時の休憩時に大量のチョコレートとスポーツ飲料を飲み安静にして体力の回復を計りますが、熱中症の様な症状が現れている場合はその程度ではほとんど回復しません。
体へのダメージは相当なものでした。
みんブラ事務局の所見:農業でも労働安全衛生法は適用除外にならない。熱中症対策は令和7年6月から事業者の義務である。
熱中症の症状が出た人を働かせ続けることは、いまや明確な違反である
この体験談は令和7年6月以降、法令違反としてはっきり評価できるものになりました。
順に説明します。
令和7年6月1日、労働安全衛生規則が改正され、
職場における熱中症対策が事業者の義務となりました。
対象となるのはWBGT28度以上または気温31度以上の環境で、
連続1時間以上または1日4時間を超えて行われる作業です。
初夏から夏の炎天下の収穫作業は完全に該当します。
そして事業者に義務づけられたのは三つです。
- 熱中症のおそれのある労働者を早期に発見するための報告体制を整備すること
- 作業からの離脱、身体の冷却、必要な場合の医療機関への搬送等の手順を作成すること
- それらを関係労働者に周知すること
ここで投稿者の記述を読み返してください。
「午後になるとめまいや吐き気といった熱中症の様な症状が現れる場合もありますが、それでも作業を中断する事は認められません」。
報告しても離脱させないのです。
これは義務の不履行そのものです。
そのうえで、全体を確認します。
- 朝5時に集合し車で2時間かけて農場へ移動した
- 作業は朝7時から夜6時までだった
- 野菜の入った段ボール箱をトラックに積み込む力作業だった
- 日中は炎天下になった
- 休憩は昼1時間と15時の10分程度のみ
- 2、3時間でバテても休むことは許されなかった
- ペースが落ちても休まず作業を続けることを求められた
- 給水と栄養補給は認められたが安静にして回復することは認められなかった
- めまいや吐き気が出ても中断できなかった
法律から見ると
熱中症対策と移動時間が中心の論点です。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 熱中症の症状が出た労働者に、作業の中断を認めなかった。 | 労働安全衛生規則 612条の2 |
令和7年6月から、作業離脱・身体冷却・医療機関への搬送等の手順の作成と周知が事業者の義務。症状の申告を退ける運用は正面から反する。 |
| 熱中症のおそれのある労働者を発見する体制が整っていない。 | 労働安全衛生規則 612条の2 労働安全衛生法22条 |
早期発見のための報告体制の整備が義務。暑熱による健康障害を防止するための必要な措置は事業者の責務である。 |
| バテた労働者にも休まず作業を続けることを求めていた。 | 労働契約法5条 労働安全衛生法3条 |
安全配慮義務。熱中症はI度からIII度へ短時間で進行し、III度は生命に関わる。回復のための安静は治療の一部である。 |
| 集合場所から農場までの2時間の移動時間の扱いが不明である。 | 労働基準法32条 (移動時間の法理) |
集合時刻・場所が指定され、会社の車で移動する時間は指揮命令下にあり労働時間と評価されるのが原則。往復4時間は賃金の対象となり得る。 |
| 朝5時集合・18時終業に往復移動を加えた拘束が生じていた。 | 労働基準法41条1号 別表第一6号 |
農業は労働時間・休憩・休日の規定が適用除外。ただし賃金・割増・安全衛生は除外されない。移動を含む拘束は15時間規模になる。 |
| 午前5時前後の集合について、深夜割増の扱いが不明である。 | 労働基準法37条4項 | 午後10時から午前5時は深夜業。41条は深夜割増を除外していないため、5時前に業務が始まればその分は25%以上の割増。 |
| 重量物の反復運搬が長時間にわたって行われていた。 | 職場における腰痛予防対策指針 労働安全衛生法22条 |
人力による重量物取扱いは体重のおおむね40%以下が目安。適宜の休憩と作業姿勢の確保が求められる。 |
| 初日から炎天下でのフル作業に従事させていた。 | 労働安全衛生規則 612条の2 労働安全衛生法59条 |
暑熱順化していない者は熱中症のリスクが高い。雇入れ時の安全衛生教育は事業者の義務であり、段階的な作業時間の設定が求められる。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
この会社を糾弾する
この記事の要点を順に述べます。
まず拘束時間を数えます。
- 5:00 集合
- 7:00 農場到着・作業開始
- 18:00 作業終了
- 帰りも2時間とすれば20:00解散
15時間の拘束です。
そのうち休憩は1時間10分。
ここで移動時間が争点になります。
会社はおそらく「移動は通勤だ」と言うでしょう。
ですが通勤とは自宅から勤務地まで自分の裁量で向かうことです。
この件では集合場所と時刻が指定され、
会社の車で運ばれるのです。
途中で降りることも、別の手段で行くこともできません。
これは指揮命令下です。
つまり往復4時間は労働時間と評価される余地が大きい。
次に農業だから仕方ないのかという点です。
労働基準法41条1号により農業は労働時間・休憩・休日の規定が適用除外です。
ですから15時間の拘束も、
休憩1時間10分も、
この条文だけを見れば争えません。
ですがここが決定的です。
労働安全衛生法は適用除外になりません。
つまり熱中症対策の義務は農業にもそのままかかります。
そしてこの会社がやっていたことを見てください。
「決められた休憩時間以外は安静にして体力を回復をする事は認められていません」。
「常に動き続ける事を求められます」。
ここで熱中症の進み方を確認します。
- I度 めまい・立ちくらみ・筋肉のこむら返り
- II度 頭痛・吐き気・倦怠感・虚脱感
- III度 意識障害・けいれん・高体温
投稿者が書いた「めまいや吐き気」は、
I度からII度に入りかけている状態です。
ここでの正しい対応は作業の中止です。
そして涼しい場所への移動と身体の冷却です。
II度以上であれば医療機関の受診が必要になります。
ところがこの会社の対応は「3時の休憩時に大量のチョコレートとスポーツ飲料」でした。
投稿者自身がこう書いています。
「その程度ではほとんど回復しません」。
正確な認識です。
そして初日からという点も重い。
投稿者は「炎天下に体が慣れていません」と書いています。
これを暑熱順化といいます。
身体が暑さに慣れるまでには数日から2週間程度かかります。
慣れていない人ほど熱中症のリスクが高いのです。
ですから初日からフルで働かせることは、
最も危険な人に最も重い負荷をかけていることになります。
そして賃金の面を確認しておきます。
農業は労働時間の規定が適用除外ですから、時間外の割増は発生しません。
ここは正確に押さえてください。
ですが払うべき賃金が減るわけではありません。
働いた時間の分は当然に支払われます。
そして最低賃金法が効きます。
ここで移動時間が効いてきます。
往復4時間が労働時間と認められれば、
1日の労働時間は15時間になります。
日給制であれば日給 ÷ 15時間が時間あたりの賃金です。
これがその都道府県の最低賃金を下回っていないか。
下回っていれば最低賃金法4条によりその定めは無効となり、
最低賃金額で計算し直した差額を請求できます。
ここを計算していない方が多い。
「日当は悪くない」と感じていても、
拘束時間で割ると違う景色が見えます。
そしてもう一つ、この職場の性質を述べます。
「ペースが落ちたとしても、そのまま休まずに作業を続ける事を求められます」。
ここに管理の誤りがあります。
ペースが落ちるのは身体からの信号です。
それを怠けと解釈しているのです。
ですが実際は逆です。
短い休憩をこまめに入れたほうが、一日の総量は増えます。
これは精神論ではなく生理学です。
体温が上がりきると作業能力は急速に落ちます。
そして判断力も落ちます。
トラックへの積み込みで判断が鈍れば、
転落・挟まれ・腰の損傷につながります。
つまり休ませないことは、安全にも生産性にもマイナスなのです。
それでも休ませないのは合理性ではなく文化で動いているからでしょう。
そして初夏という季節にも触れておきます。
熱中症は真夏より梅雨明け直後や初夏に多いことが知られています。
理由は身体がまだ暑さに慣れていないからです。
汗をかく機能は使わないと鈍ります。
そして本人の自覚も追いつきません。
「まだ7月でもないのに」と思ううちに進行します。
だからこそ初日からフル稼働という運用が危険なのです。
そして作業の中断を求めることは権利だと申し上げます。
労働安全衛生法26条は労働者は、事業者が講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならないと定めています。
裏を返せば危険な指示に従う義務はありません。
めまいや吐き気が出ている状態で重量物を運ぶことは、
本人にも周囲にも危険です。
こういう会社は、今すぐ辞めていい
3つの理由を述べます。
- 1. 症状を言っても止めない職場では、次は倒れるまで気づかれない
めまいと吐き気を訴えても中断できないのですから、次に言うことはなくなります。そして意識を失ってから発覚することになります。III度は死に至ります。 - 2. 農業でも安全衛生は適用除外にならない
労働時間・休憩・休日は確かに外れます。ですが労働安全衛生法と同規則は完全に適用されます。「農業だから」は熱中症対策をしない理由になりません。 - 3. 体へのダメージは、後から取り返せない
投稿者自身が「体へのダメージは相当なもの」と書いています。熱中症は腎機能や神経に後遺症を残すことがあります。賃金では取り返せません。
もし今、同じ状況にいるなら
- 1. 症状が出たら、記録に残る形で伝える
「◯時◯分、めまいと吐き気」とメッセージで送ってください。令和7年6月から事業者には報告体制の整備と対応手順の周知が義務です。報告したのに離脱させなかったという事実が証拠になります。 - 2. 集合時刻と解散時刻を、毎日書き留める
集合場所・時刻、農場到着、作業終了、解散を記録してください。往復の移動が労働時間と認められれば賃金の対象になります。時効は当面3年です。 - 3. 倒れたら、必ず労災の手続きへ
業務中の熱中症は労災保険の対象です。認定するのは労働基準監督署であり、会社ではありません。相談先は労働基準監督署の安全衛生課(匿名申告も可)。賃金や移動時間も同じ窓口です。
この体験談に近いケース
この体験談に近いケースとして、あわせて読まれている記事です。
- 牧場で13時間労働。農業・畜産で外れるのは労働時間・休憩・休日だけ。
- 委託給食の朝5時出勤。始業前の準備時間も労働時間に含まれます。
- 1日15時間労働。休憩が取れない現場は労基法34条違反です。
- 建設業の施工管理。屋外作業と長時間労働が重なる現場の実態。
この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。





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