残業代はボーナスから差し引かれる…「労基署対策」で打刻後に働いていた事務所

ある税理士事務所は本当にブラックでした。正社員募集に応募したのですが、パートタイムからのスタートと言われ、最低賃金とほぼ同額の時給です。1年経っても正社員登用はおろか、昇給すらありませんでした。
教育は無いに等しく、以前の書類を見ながら同じようにやってみてと言われました。わからないことを聞いても皆教える余裕もないようでした。結局、本やインターネットで調べて独自の解釈で処理するしかありません。今思うと、先輩社員も同様で間違った処理もたくさんありました。
年俸制を謳っていて、残業代はボーナスから差し引かれました。
12月から5月までの年末調整・確定申告・3月決算法人の申告の時期は午前様が当たり前です。それでも間に合わず、土日も関係なく仕事漬けでした。
実際には労働基準監督署対策もあり、定時になるとタイムカードを押してから仕事を続けていました。
税理士の先生はやれ出張だゴルフだと事務所にいることは少なく、経費で購入した高級車を乗り回していました。先生のお気に入りの社員には比較的作業がラクな顧問先を担当させ、新人ほど大変な所を担当させられます。
我慢の限界が来て辞めたいと伝えたところ、「頑張ってくれているから正社員にしようと思っていたので、このまま続けて欲しい」と言われましたが、待遇の改善は見込めないと判断し退職しました。
みんブラ事務局の所見:年俸制でも割増賃金の支払義務はなくならない。ボーナスから引くのは払っていないのと同じである。
年俸制でも、割増賃金の支払義務はなくならない
この体験談で最も誤解の多い部分から取り上げます。
投稿者はこう書いています。
「年俸制を謳っていて、残業代はボーナスから差し引かれました」。
ここをはっきり申し上げます。
年俸制でも割増賃金は必要です。
年俸制とは賃金額を年単位で決めるという支払方法の一種です。
労働時間の規制を外す制度ではありません。
労働時間の規制が外れるのは労働基準法41条の管理監督者や41条の2の高度プロフェッショナル制度など、
限られた場合だけです。
そしてここが重要です。
年俸に賞与部分が含まれている場合、その賞与も割増賃金の算定基礎に含まれます。
通常賞与は臨時に支払われる賃金として算定基礎から除かれます。
ですが年俸額があらかじめ決まっていて、その一部を賞与として支払う形であれば、
それは臨時の賃金ではありません。
つまり年俸制のほうが割増の単価は高くなることがあるのです。
そしてこの事務所は逆のことをしていました。
ボーナスから残業代を差し引いたのです。
これは賃金の全額払いにも反します。
そのうえで、全体を確認します。
- 正社員募集に応募したがパートからと言われた
- 時給は最低賃金とほぼ同額だった
- 1年経っても登用も昇給もなかった
- 教育は無いに等しく、過去の書類を見て同じようにやれと言われた
- 独自の解釈で処理するしかなかった
- 先輩社員にも間違った処理がたくさんあった
- 年俸制を理由に残業代をボーナスから差し引いた
- 12月から5月は午前様が当たり前で土日も仕事漬けだった
- 「労基署対策」として定時にタイムカードを押してから仕事を続けていた
- 税理士は事務所にいることが少なかった
- お気に入りには楽な顧問先、新人ほど大変な所を担当させた
- 辞意を伝えると「正社員にしようと思っていた」と言われた
法律から見ると
年俸制と割増賃金、そして監督義務が論点です。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 年俸制を理由に、残業代をボーナスから差し引いていた。 | 労働基準法37条 24条 |
年俸制でも割増賃金の支払義務はなくならない。年俸額があらかじめ確定している場合の賞与部分は割増賃金の算定基礎に含まれる。 |
| 労働基準監督署対策として、打刻後に業務を続けさせていた。 | 労働基準法108条 労働安全衛生法66条の8の3 |
客観的方法による労働時間の把握が事業者の義務。実態と乖離させる意図をもった運用は賃金台帳の虚偽記入にもつながる。 |
| 正社員募集に応募した者をパートタイムとして採用していた。 | 労働基準法15条 職業安定法5条の3 65条8号 |
労働契約の期間・雇用形態は明示すべき労働条件。募集時の的確表示義務があり、虚偽の条件による募集は罰則の対象。 |
| 繁忙期に深夜に及ぶ勤務が続き、土日も稼働していた。 | 労働基準法35条 36条 36条6項 |
36協定なしの時間外・休日労働は違法。特別条項でも単月100時間未満・複数月平均80時間以内が上限。休日労働には35%以上の割増が必要。 |
| 教育を行わず、過去の書類を見て処理させていた。 | 労働安全衛生法59条 税理士法41条の2 |
雇入れ時の教育は事業者の義務。税理士は使用人その他の従業者が業務に関して違法行為を行わないよう監督する義務を負う。 |
| 有資格者が不在がちで、処理の内容が確認されていなかった。 | 税理士法41条の2 45条 46条 |
監督義務違反には懲戒処分がある。誤った処理は依頼者に不利益をもたらし、従業者個人の責任も問われかねない。 |
| 担当の割振りが、有資格者の個人的な評価で決まっていた。 | 労働契約法3条4項 労働施策総合推進法30条の2 |
業務の配分は業務上の必要性に基づくべきもの。合理的な理由のない偏った割当ては権利の濫用が問題となる。 |
| 1年勤務しても正社員登用も昇給も行われなかった。 | パートタイム・有期雇用 労働法13条 労働基準法15条 |
通常の労働者への転換を推進する措置が事業主の義務。登用の要件を明示せず期待だけ持たせる運用は労働条件の不明確さそのものである。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
この事務所を糾弾する
この記事の要点を順に述べます。
まず「労基署対策」という言葉です。
投稿者はこう書いています。
「実際には労働基準監督署対策もあり、定時になるとタイムカードを押してから仕事を続けていました」。
ここをはっきり申し上げます。
違法だとわかっているのです。
知らずにやっているのではありません。
調査を想定して記録を整えているのです。
そしてここがこの記事の皮肉です。
この事務所は税理士事務所です。
つまり法令に基づいて数字を扱う専門家です。
顧問先には適正な記帳と申告を指導する立場です。
その事務所が自分の労働時間の記録を偽っているのです。
次に年俸制です。
「残業代はボーナスから差し引かれました」。
この仕組みを分解します。
まず残業代が発生していることは認めています。
そしてそれをボーナスから引くのです。
つまり受け取る総額は変わりません。
これは残業代を払っていないのと同じです。
ここで労働基準法37条の意味を考えてください。
割増賃金には二つの目的があります。
- 働いた分の対価を払う
- 長時間労働を抑制する
二つ目が重要です。
残業させるとコストが増えるから、
会社は減らそうとするのです。
ところがボーナスから引くのであれば、
いくら残業させてもコストは増えません。
だから午前様が当たり前になるのです。
次に教育の不在です。
「以前の書類を見ながら同じようにやってみて」。
そして結果がこれです。
「本やインターネットで調べて独自の解釈で処理するしかありません」。
ここで止まってください。
税務の処理は顧問先の申告につながります。
誤れば修正申告や加算税の問題になります。
そして投稿者はこう書いています。
「先輩社員も同様で間違った処理もたくさんありました」。
ここで税理士法41条の2を引きます。
税理士は、税理士業務を行うため使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けるところのないようこれらの者を監督しなければならない。
そしてこの税理士は「やれ出張だゴルフだと事務所にいることは少なく」でした。
監督が成立していません。
最後に引き留めの言葉です。
「頑張ってくれているから正社員にしようと思っていたので、このまま続けて欲しい」。
ここを整理します。
1年何もなかったのです。
そして辞めると言った瞬間に出てきたのです。
本当にそう思っていたなら、
先に伝えているはずです。
投稿者の判断は正確でした。
「待遇の改善は見込めないと判断し退職しました」。
そしてこの事務所の構造をもう一段掘り下げます。
投稿者はこう書いています。
「先生のお気に入りの社員には比較的作業がラクな顧問先を担当させ、新人ほど大変な所を担当させられます」。
ここに二重の不合理があります。
第一に、経験の浅い人ほど難しい案件を持つことになります。
普通は逆です。
難しい案件ほど経験と知識が要ります。
第二に、教育がないのです。
つまり知識がない人が、難しい案件を、独学で処理することになります。
これが「間違った処理もたくさんありました」という結果を生んでいます。
そして被害を受けるのは顧問先です。
ここまで整理すれば見えてきます。
この事務所の問題は労働環境だけではありません。
サービスの品質にも及んでいます。
そして時効は当面3年です。
打刻後の労働時間の記録が残っていれば、
退職後でも割増賃金を請求できます。
そして年俸制でもそれは変わりません。
そして士業事務所という職場について一般化して述べます。
税理士事務所、会計事務所、法律事務所、司法書士事務所。
これらには共通の特徴があります。
- 規模が小さいことが多い
- 有資格者が経営者を兼ねている
- 繁忙期の波が激しい
- 就業規則がないこともある
そして経営者が法律の専門家であることが多い。
ここで誤解が生まれます。
「専門家だから法律を守っているはずだ」という思い込みです。
ですが税法の専門家が労働法の専門家とは限りません。
むしろ知っていてなお守らない場合もあります。
この事務所の「労基署対策」という言葉がそれを示しています。
ですから肩書きで判断せず、労働条件通知書と実際の運用を見ることが大切です。
そして確定申告の時期という事情にも触れます。
12月から5月は年末調整、確定申告、3月決算法人の申告が重なります。
忙しくなること自体は避けられません。
ですが半年です。
年の半分が繁忙期なら、
それは季節変動ではなく常態です。
そして対処法はあります。
- 1年単位の変形労働時間制
- 繁忙期の応援体制
- 顧問先の数の調整
いずれも経営の判断です。
こういう事務所は、今すぐ辞めていい
3つの理由を述べます。
- 1. 「労基署対策」をしている時点で、認識がある
知らないのではありません。知っていて隠しているのです。指摘されても直さないでしょう。記録を整えるほうに手間をかけているのですから。 - 2. 教育のない事務所では、誤りの責任が個人に来る
独自の解釈で処理していればいつか誤りが表に出ます。そのとき監督していなかった側が責任を認めるかを考えてください。 - 3. 1年動かなかった待遇は、2年目も動かない
登用も昇給もありませんでした。そして辞意を伝えたら急に出てきた。引き留めのための言葉と見るのが自然です。
もし今、同じ状況にいるなら
- 1. 打刻時刻と実際の退所時刻を、両方記録する
「18:00打刻/翌1:30退所」という形で毎日書いてください。この差が未払いの時間です。入退館記録、パソコンのログ、メールの送信時刻も有力です。 - 2. 年俸制でも、割増賃金は計算できる
年俸額を年間の所定労働時間で割った額が基礎になります。年俸に賞与部分が含まれていればそれも算入されます。時効は当面3年です。 - 3. 相談先は労基署、税理士の監督は税理士会
賃金・労働時間は労働基準監督署(匿名申告も可)。雇用形態の相違はハローワークの求人ホットライン。税理士業務の適正については所属の税理士会にも窓口があります。
この体験談に近いケース
この体験談に近いケースとして、あわせて読まれている記事です。
- 「タイムカード切ってから残業だからな?」記録を残さない手口。
- ブラック法律事務所は違法労働だらけ。士業事務所の実態。
- パート使い捨て!正社員登用をちらつかせて働かせる構造。
- 研修期間の給料ってこれが普通なの?教育がないまま働かされる。
この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。





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