大手人材サービスの徹底した実力主義と激しい競争。毎月殴り合いのケンカ。犯罪に走り、留置場で懲戒解雇される社員も。
人材サービス業が今の世間にここまで浸透する前に、偽装派遣などと言われ大きな裁判案件も抱えていた人材サービス業で働いていました。
新卒者は誰一人おらず、中途入社者だけで営業系50人、技術系社員2000人の規模でした。その上には、グループ全体で5万人規模のグループ社員がいました。
完全実力主義=成績のみの会社でしたので、入社して2ヶ月後には営業所長、3ヶ月後にはグループ子会社の社長に、なんてこともありました。年齢が関係ないので、20代で年収1000万円稼ぐ人もいました。
ここまで書くといいことだらけのようですが、当時はブラック企業なんて言葉はなかったのですが、「24時間365日働きます。」といった宣言をするくらいのブラック企業。営業の数字は昨年対比120%が最低死守ライン。150%やってよくやった程度。200%やって頑張ったね、といった感じです。もちろん会社全体でも同様の数字の感覚で追いかけますので、月末あたりになると毎日、数字の確認が入ります。
夜11時くらいに全社の数字が集まって、予定まで届きそうにないと、社長が「全員集めろ、会議だ」と携帯電話を投げ捨てて号令をかけます。集まる、集まらないは別として、全営業所長に電話をして「今から会議です、本社に集まってください。」と電話します。
集まったら集まったで、会議でヒートアップしていくと、ロの字型でセッティングした会議室のテーブルを乗り越えて営業所長を目の前に怒鳴りつけ、ペットボトルを投げつける。それを下っ端の私が片付ける。そんな会議の連続でした。
技術系の社員には、悲しいことに窃盗、詐欺などで捕まる社員も多数で、よく警察の方が情報提供してときてくれたり、留置場まで懲戒解雇を伝えにいったりしましたね。中途社員で数字のみで判断されるので、人間関係もごちゃごちゃしており、月に一度は社内で殴り合いも喧嘩がありましたね。
それでも、数字がよければ昇給昇格当たり前の世界でしたので、残る人はやる気満々だったのが、今でも不思議です。案の定、あちこちで裁判もあり、数年後には倒産しました。
数々の違法行為で行政指導を受けて廃業したグッドウィル・グループかな?。派遣マージン率に囚われないで!
体験談中には書いてないですけど、この規模で倒産したという事実から推測するに、たぶんグッドウィル・グループでしょうね。グッドウィルは偽装派遣、二重派遣、「データ装備費」問題、労災隠しなどなどの数々の違法行為で行政処分を受けていて、2008年に廃業になっています。なお、介護報酬不正請求事件で話題になった「コムスン」もグッドウィル・グループです。まあ、当時の派遣業界なんて、他にもこんな会社たくさんあったと思うので、見せしめ的な処分だったのかもですけど。
この事件をきっかけに派遣社員や格差問題の声が大きくなったり、偽装派遣など派遣法に関する法知識の研修などが企業で一般化されたり、色々な意味で社会に影響を与えた事件でした。
この事件を改めて見返して思うのですけど、今の人材派遣業界って「派遣の中間マージン比率」の件ばかりが話題になってる気がします。改正派遣法に基づくマージン率の公開が義務化されて、ピンハネ率で派遣会社を比較する人が増えてるような?(たぶん、多くの派遣会社が20~40%くらいだと思いますが)。
でも、これは本質からズレてますね。「立場の弱い派遣・非正規労働者から、40%とか半分も会社が中抜きしてボロ儲けしてて、搾取構造許すまじ~!」って見当違いの批判をしている人が多い気がします。マージンって利益じゃないし、そんなことは上場派遣企業のIR情報の営業利益率やROEを見ればすぐわかるのですが、そういうデータを見ないで”イメージ”で語っちゃってるんでしょうね…。
本質的に何が問題だったのか、現在もどんな問題を抱えているのか。グッドウィル事件やコムスン事件を思い出して、もう一度よく考えて欲しいですね。
そうしないと、「搾取許すまじ~」や「格差」といった心情的な批判の隠れ蓑の裏で、第2のグッドウィルのような違法企業の誕生を許すことになりかねません(既にあるかもしれない・・・)。