妊娠中に重い物を運んだり、自動車を運転するのは危険と感じ、配置転換を申し出たが却下され…。

当時食材の仕込み、配送を行っていました。
夏頃、妊娠が分かり、重い物を運ぶのは危ないと思い、流産の危険性が減る妊娠中期頃に、妊娠報告と業務変更を上司に伝えました。人数が少ない部署でしたので、急遽誰かが休んだ際や、手が開かない際には配送の仕事も時間かかっても行うが、毎日配送は出来ない。と伝えました。
上司も分かってくださり、報告した月末にあるイベントが終わり次第、仕事内容の変更を承認してくれました。
しかし、仕事内容の変更後2週間で「人が足りないため、配送の仕事を臨月の産休入るまで行って欲しい。安定期に入ったのなら問題ないだろう?」と言われました。
安定期に入り睡魔が酷くなり運転中が怖い、安定期に入ったからと流産や切迫早産など不安要素はなくならないと伝えましたが、取り合って貰えませんでした。会社側からすれば仕事の運営の方が大事なのだと思いました。
また配送中、渋滞で遅くなった際、退勤が定時を過ぎてしまったことが何度かありました。
定時退社に厳しいので、こちらも急いで退勤準備や配送車の鍵の返却を行っていたところ、事務所の大勢の前で怒鳴られることも。「渋滞で遅くなりました。返却後、退勤準備をして帰ります。」と伝えても、渋滞で遅れたことは言い訳だと、10分程、事務所で説教されたことも何度かありました。
みんブラ事務局の所見:妊娠中の軽易業務への転換は労働基準法65条3項の「義務」。人手不足は免除理由にならない。
この職場の何がブラックだったのか
この体験談の経緯は、順を追うと会社の判断がどこで狂ったのかがはっきり分かります。
投稿者は食材の仕込みと配送を担当していました。夏頃に妊娠が分かり、重い物を運ぶのは危ないと考え、流産の危険性が減る妊娠中期に、妊娠報告と業務変更を上司に伝えました。
ここで注目してほしいのは、この方の伝え方です。「人数が少ない部署でしたので、急遽誰かが休んだ際や、手が開かない際には配送の仕事も時間かかっても行うが、毎日配送は出来ない」。
職場の事情を踏まえたうえで、できることとできないことを具体的に線引きして提案している。極めて誠実で、現実的な申し出です。そして上司も理解を示し、月末のイベントが終わり次第、仕事内容の変更を承認しました。
ところが、変更からわずか2週間後です。
「人が足りないため、配送の仕事を臨月の産休入るまで行って欲しい。安定期に入ったのなら問題ないだろう?」
投稿者は反論しています。「安定期に入り睡魔が酷くなり運転中が怖い」「安定期に入ったからと流産や切迫早産など不安要素はなくならない」。いずれも正確な指摘です。しかし取り合ってもらえませんでした。
そして投稿者はこう書いています。「会社側からすれば仕事の運営の方が大事なのだと思いました」。
さらに、配送中に渋滞で退勤が定時を過ぎたとき。この会社は定時退社に厳しく、急いで鍵の返却と退勤準備をしていたところ、事務所の大勢の前で怒鳴られる。「渋滞で遅くなりました」と説明しても「渋滞で遅れたことは言い訳だ」として、10分ほど事務所で説教されたことが何度もあったといいます。
妊婦に配送を命じておいて、渋滞で遅れたら人前で叱責する。この非対称が、この職場のすべてです。
法律から見ると、これは何にあたるのか
この職場で行われていたことを条文と突き合わせます。妊娠中の労働者には、極めて明確な保護規定があります。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 妊娠中に業務変更を申し出て一度承認されたのに、2週間で撤回され配送業務に戻された。 | 労働基準法65条3項 | 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。これは努力義務ではなく義務であり、人手不足は免除の理由にならない。 |
| 「安定期に入ったのなら問題ないだろう?」として臨月まで運転・重労働を命じた。 | 男女雇用機会均等法 13条 |
母性健康管理措置として、医師等から指導を受けた場合、事業主は勤務時間の変更や作業の制限など必要な措置を講じなければならない。母性健康管理指導事項連絡カードを使えば、医師の指導内容を確実に会社へ伝えられる。 |
| 妊娠を理由とする業務上の申し出が、実質的に不利益な扱いにつながった。 | 男女雇用機会均等法 9条3項・11条の3 |
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いは禁止され、事業主には妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置義務がある。「安定期なら平気だろう」という決めつけも、この措置義務の対象となる言動。 |
| 睡魔が酷く運転が怖いと訴えたが、取り合ってもらえなかった。 | 労働契約法5条 | 使用者は労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務を負う。眠気を訴える労働者に運転業務を継続させることは、本人と胎児だけでなく第三者の生命にも関わる。 |
| 配送中の渋滞で退勤が定時を過ぎたことを、大勢の前で怒鳴られ10分説教された。 | 労働施策総合推進法 30条の2 |
本人に責任のない事情を理由とする、他の労働者の面前での叱責は「精神的な攻撃」にあたり得る。 |
| 配送が定時内に終わらない業務量を割り当てていた。 | 労働基準法32条 労働基準法37条 |
定時を過ぎた分は時間外労働であり、25パーセント以上の割増賃金が必要。定時退社を求めながら終わらない業務量を課すのは、サービス残業を生む構造そのもの。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
この記事で最も重要な条文を、はっきり書きます。労働基準法65条3項です。
条文はこう定めています。「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない」。
ポイントは3つあります。
- ①「請求した場合」で足りる。医師の診断書がなくても、本人が請求すれば義務が生じます。
- ②「転換させなければならない」——義務です。努力目標ではありません。人手不足も、繁忙期も、免除の理由になりません。
- ③一度転換したものを、会社の都合で元に戻すことは想定されていません。この体験談で起きた「2週間で撤回」は、65条3項の趣旨に真っ向から反します。
そして、もうひとつ強力な制度があります。母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)です。
男女雇用機会均等法13条は、妊娠中・出産後の女性労働者が医師等から指導を受けた場合、事業主は勤務時間の変更や作業の制限などの措置を講じなければならないと定めています。そして、その医師の指導内容を会社に正確に伝えるための様式が母健連絡カードです。厚生労働省が様式を定めており、母子健康手帳にも掲載されています。
なぜこれが強力なのか。「本人がそう言っているだけ」という反論を封じられるからです。この体験談では、投稿者が「睡魔が酷い」「運転が怖い」と訴えても取り合ってもらえませんでした。ところが医師が「長時間の車両運転は制限すべき」とカードに記載すれば、事業主にはそれに応じた措置を講じる義務が生じます。個人の訴えではなく、法律上の義務の話になるのです。
最後に、「安定期だから大丈夫」という言説について。これは医学的にも誤りです。投稿者が指摘しているとおり、安定期に入っても切迫早産や妊娠高血圧症候群などのリスクはなくなりません。そして妊娠中の眠気は、ホルモンの変化によるごく一般的な症状です。意志の力で克服できるものではありません。眠気を抱えたまま毎日車を運転させる判断に、安全上の合理性はありません。
「仕事の運営の方が大事」という会社を糾弾する
ここからは、事務局として率直に書きます。
この体験談で最も残酷なのは、一度承認されたという点です。
もし最初から拒否されていたなら、この方は別の対応を取れたかもしれません。労働局に相談するなり、転職を考えるなり。ところが上司は「分かってくださり」、月末のイベント後に業務変更を承認しました。その時点で、この方は安心したはずです。これで臨月まで働ける、と。
そして2週間後に撤回された。
これは単なる方針転換ではありません。「配慮する」という約束を、会社の都合で一方的に取り消したということです。しかも撤回の理由は「人が足りないため」。人員配置は会社の責任であって、妊婦が引き受けるべきものではありません。
そして「安定期に入ったのなら問題ないだろう?」という一言。この言葉の何が問題か。本人でも医師でもない人間が、身体の状態を判定している点です。
この上司は、妊娠したことがありません(少なくともこの体で妊娠していません)。医学的な訓練も受けていません。それでも「安定期=問題なし」という俗説を根拠に、他人の身体と胎児のリスクを決定した。そして本人が「睡魔が酷くて運転が怖い」と具体的な症状を訴えても、取り合わなかった。自分の思い込みのほうが、当事者の体感より上位にあるという態度です。
さらに看過できないのが、渋滞での遅刻に対する叱責です。妊婦に毎日の配送を命じているのは会社です。渋滞は本人の責任ではありません。それでも事務所の大勢の前で怒鳴り、10分間の説教をする。「渋滞で遅れたことは言い訳だ」と。
この会社の論理を整理してみましょう。妊婦に運転をさせる責任は会社にない。渋滞で遅れる責任は本人にある。人手が足りない責任も、なぜか本人が引き受ける。——都合の良い方向にだけ、責任の所在が移動しています。
投稿者の「会社側からすれば仕事の運営の方が大事なのだと思いました」という一文は、静かですが決定的です。従業員の妊娠と、業務の運営が同じ天秤に載せられ、業務が勝った。そもそも載せてはいけない天秤です。労働基準法65条3項が「義務」として定めているのは、まさにこの天秤を禁じるためなのですから。
なぜ、この状況は今すぐ動くべきなのか
第一に、取り返しがつかないからです。賃金の未払いは後から請求できます。長時間労働は辞めれば止まります。しかし妊娠中に起きたことは、後から取り消せません。切迫早産も、事故も、「あのとき断っておけば」では済みません。
第二に、眠気を抱えた運転は、第三者を巻き込む危険があるからです。この方は「運転中が怖い」と明確に訴えています。これは本人の主観ではなく、事故のリスクを本人が予見しているという事実です。万一事故が起きれば、責任を問われるのは運転していた本人になります。危険な業務を命じた側ではありません。
第三に、この会社は出産後も同じ対応をするからです。妊娠中の配慮すら人手不足を理由に撤回する会社が、産休・育休で配慮するとは考えにくい。子の急な発熱で休むたびに、「人が足りないから」と言われることになります。いま起きていることは、今後数年間の予告編です。
いま同じ状況にいる人が、今日のうちにやるべき3つのこと
- 1. 母健連絡カードを使う。これが最も確実
母性健康管理指導事項連絡カードは、医師の指導内容を会社に正確に伝えるための厚生労働省の様式で、母子健康手帳に掲載されています。健診の際に主治医へ「長時間の運転と重量物の取り扱いを制限したい」と相談し、カードに記載してもらってください。カードが提出されれば、事業主には均等法13条により措置を講じる義務が生じます。「本人がそう言っているだけ」という反論を封じられるのが最大の利点です。提出する前に必ずコピーを取ってください。 - 2. 業務転換の請求は、記録に残る形で行う
労働基準法65条3項の軽易業務への転換は、請求すれば会社の義務です。口頭ではなくメールや書面で「妊娠中のため、労働基準法65条3項に基づき軽易な業務への転換を請求します」と伝えてください。一度承認されたなら、その承認のやりとりも保存しておきます。撤回された場合、「一度は認めていた」という記録が極めて有効な材料になります。言われた言葉(「安定期なら問題ないだろう」等)も日付つきで記録を。 - 3. 労働局の「雇用環境・均等部(室)」へ
妊娠・出産に関する不利益取扱いやマタニティハラスメントは、各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が管轄で、事業主への助言・指導・勧告の権限を持っています。相談は無料です。労働基準法65条3項違反については労働基準監督署が窓口になります。どちらも、まだ在職中でも相談できます。産休・育休を取得する予定があるなら、その権利についてもあわせて確認しておくとよいでしょう。
この体験談に近いケース
この体験談に近いケースとして、あわせて読まれている記事です。
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- マタハラ体験談まとめ。上司「妊娠出産後に戻る場所はない」と相撲取りのジェスチャー。
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- ブラック病院で医療事務として働き、こき使われた挙句クビにされた経緯。
この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。





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