鬱病で休職を願い出た社員を働かせることはできない。しかし人手不足が深刻。出た結論「給料を払わないで勤務させる。そうすれば働かせていることにはならない」。

私は、病気休職中に、ただ働きを命じられました。鬱病の影響で働けない旨の医師の診断書を提示して、休職を願い出たところ、社内では「鬱病の者を働かせてはいけない」「今休まれては人手が足りない」という2つの意見が出ました。
そこで間を取って「給料を払わないで勤務させる。そうすれば働かせていることにはならない」という結論に至り、ただ働きを命じられることとなったのです。理屈や労働力のことしか考えず、働いている職員の都合や健康状態を無視し、給料支払いさえ止めたブラック企業の体質・考えと言えるでしょう。
そもそも私は約7年間、鬱病を抱え病院に通いながら出勤をしていました。しかし鬱病となった原因を取り除かないままで勤務を続けていましたので、やはり病状は悪化。下痢や嘔吐や睡眠障害や目眩でまともに働けなくなったので、しかたなく遂に休職を願い出たという経緯なのです。
しかし、その挙句が「休職中に無報酬で働け」という指示でした。その後、タイムカードは没収され、PCのIDを停止され、出勤したという記録を残すことを禁止された状態で勤務を命じられました。つまり出勤の証拠を隠されたわけで、悪事と分かっていて隠そうとする体質もブラック企業的です。
残業は月20時間以下でしたが、そもそも残業代未払いを通り越して給与未払いを公然と行われ、その結果4ヶ月後に自主退職へ追い込まれることとなりました。
みんブラ事務局の所見:「無給なら働かせたことにならない」は完全な誤り。違法が消えるどころか一つ増える。
「無給なら働かせたことにならない」という致命的な誤り
この体験談の中心にあるのは、会社が下したひとつの結論です。まずはその経緯を追いましょう。
投稿者は約7年間、うつ病を抱えながら通院しつつ出勤していました。しかし原因を取り除かないまま勤務を続けたため病状は悪化。下痢、嘔吐、睡眠障害、めまいでまともに働けなくなり、医師の診断書を提示して休職を願い出ます。
社内では2つの意見が出たといいます。「鬱病の者を働かせてはいけない」と「今休まれては人手が足りない」。そして「間を取って」出た結論が、これです。
「給料を払わないで勤務させる。そうすれば働かせていることにはならない」。
この理屈は、法的に完全に誤っています。それも、方向が逆です。賃金を払わないことは、労働の事実を消すのではなく、賃金不払いという別の違法行為を積み増すだけです。会社は違法を回避したつもりで、違法をひとつ増やしました。
そして、その後の行動が悪質さを決定づけます。タイムカードは没収され、パソコンのIDは停止され、出勤したという記録を残すことを禁止された状態で勤務を命じられた。
投稿者はこう書いています。「つまり出勤の証拠を隠されたわけで、悪事と分かっていて隠そうとする体質もブラック企業的です」。そのとおりです。記録を消したということは、記録が残れば不都合だと理解していたということに他なりません。知らずにやったのではなく、知っていてやったのです。
結果、この方は4か月後に自主退職へ追い込まれました。
法律から見ると、これは何にあたるのか
この会社が行ったことを条文と突き合わせます。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 休職を願い出た労働者に対し、給料を払わずに勤務することを命じた。 | 労働基準法11条 労働基準法24条 |
労働の対償として使用者が支払うすべてのものが賃金であり、労働させた以上、賃金の支払義務は当然に発生する。全額払いの原則に反し、支払わなければ違法。 |
| 「無給なら働かせたことにならない」という前提で就労させた。 | 労働基準法32条 労働基準法37条 |
賃金の有無にかかわらず、使用者の指揮命令下にある時間は労働時間。無給であることは、労働時間の存在を否定する根拠にはならない。 |
| タイムカードを没収し、パソコンのIDを停止し、出勤記録を残すことを禁じた。 | 労働基準法108条 労働安全衛生法66条の8の3 |
使用者には労働時間を適正に把握する義務と賃金台帳の調製義務がある。記録を残させない行為は、義務違反であると同時に違法性の認識を示す事情として評価される。 |
| 医師が就労不能と診断した労働者に、就労を命じ続けた。 | 労働契約法5条 | 使用者は労働者が安全と健康を確保しつつ働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負う。診断書という明確な資料がありながら就労させ症状が悪化すれば、損害賠償責任を問われ得る。 |
| 7年間、うつ病の原因を取り除かないまま勤務を継続させた。 | 労働安全衛生法66条の10 労働契約法5条 |
労働者50人以上の事業場にはストレスチェックの実施義務があり、高ストレス者への面接指導などの措置が求められる。原因を放置したまま就労を継続させたことは、安全配慮義務の観点からも問題。 |
| 4か月後に自主退職へ追い込まれた。 | 労働契約法16条 | 実質的に退職を強いる行為は、解雇権濫用法理の潜脱にあたり得る。無給就労という耐えがたい状態を作り出して辞めさせる手法は、退職の任意性そのものが疑わしい。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
この事例を理解する鍵は、労働基準法11条の賃金の定義にあります。
賃金とは「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」です。つまり因果は労働 → 賃金の順に流れます。働かせたなら、賃金が発生する。これは契約で変更できるものではなく、法律上当然に生じる義務です。
ところがこの会社は、因果を逆向きに理解しました。賃金を払わなければ、労働ではなかったことになると考えたわけです。そんな理屈が通るなら、すべての企業が無給で人を働かせられることになります。当然、通りません。
むしろ実務上は逆の効果を生みます。この会社は①医師が就労不能とした労働者を働かせた(安全配慮義務違反)、②その労働に賃金を支払わなかった(賃金不払い)、③記録を残させなかった(労働時間把握義務違反)という3つの違法を重ねました。「間を取った」つもりが、両方の違法を同時に成立させたのです。
そして記録の隠蔽について。タイムカードの没収とIDの停止は、後に労働者が証拠を出せなくするための措置です。しかし皮肉なことに、この行為自体が会社が違法性を認識していたことの強力な証拠になります。適法だと信じているなら、記録を消す必要がないからです。
証拠を消してから働かせる会社を糾弾する
ここからは、事務局として率直に書きます。
この体験談で私たちが最も重く受け止めたのは、この結論が「話し合いの末に」出されたという点です。
社内で議論があったのです。「鬱病の者を働かせてはいけない」という正しい認識を持っていた人がいた。一方で「今休まれては人手が足りない」という現実論があった。そして「間を取って」この結論に至った。
ここに、この会社の本質があります。労働者の健康は、「調整可能な項目」として扱われている。本来なら「働かせてはいけない」は譲れない一線であり、人手不足は会社が別の手段で解決すべき課題です。ところがこの会社では、両者が同じ天秤に載せられ、折衷案が探された。そして折衷の犠牲になったのは、うつ病の従業員の健康と賃金の両方でした。
そして「働かせていることにはならない」という言い回し。これは法律論のつもりでしょうが、実際には自分たちを納得させるための呪文です。誰かが「それは違法では」と言ったとき、この一言があれば場が収まる。責任の所在が曖昧になる。組織が非道な決定を下すとき、たいていこの手の言い換えが用意されています。
タイムカードの没収とID停止に至っては、弁解の余地がありません。適法だと思っているなら、記録は残したままでよいはずです。消したということは、「これは記録に残せない類のことだ」と会社自身が判断したということです。投稿者の「悪事と分かっていて隠そうとする体質」という指摘は、法的にも正確です。
そして忘れてはならないのが、この方が7年間、うつ病を抱えながら通院して出勤し続けていたという事実です。7年です。その間、会社は原因を取り除く手当てを何ひとつしなかった。限界が来て休職を願い出た人に対する回答が、無給での就労命令でした。7年間の勤務に対する、これが答えなのです。
なぜ、この状況からは即座に離れるべきなのか
第一に、この状態に「合法な着地点」が存在しないからです。無給で働けば賃金不払いが続き、働けば病状が悪化する。会社は記録も残させない。時間が経つほど、失うものだけが増えていく構造です。交渉して改善する余地は、この結論を「間を取った案」として採用した組織には期待できません。
第二に、うつ病は原因から離れなければ回復しないからです。この方は7年間、原因を抱えたまま通院を続け、最終的に下痢・嘔吐・睡眠障害・めまいという身体症状が出るところまで悪化しました。7年という時間は、早期に環境を変えていれば失わずに済んだ時間でもあります。
第三に、記録が消される前に動く必要があるからです。この会社はタイムカードとIDを止めました。会社が消せない記録を、自分の手元に作っておくことが唯一の対抗手段です。時間が経つほど、記憶も証拠も薄れます。
いま同じ状況にいる人が、今日のうちにやるべき3つのこと
- 1. 会社が消せない記録を作る
タイムカードを取り上げられ、IDを止められても、会社の管理外にある記録は残せます。手帳やスマートフォンのメモに毎日の出退勤時刻を書く。交通系ICカードの利用履歴は乗車時刻の客観的な記録になります。スマートフォンの位置情報履歴も同様です。自宅から会社へ向かうときに家族や友人へ一言送るだけでも、送信時刻が残ります。そして「無給で勤務するように」と言われた経緯は、日付・相手・発言をそのまま記録してください。 - 2. 主治医に、会社の指示を正確に伝える
医師が就労不能と診断しているにもかかわらず出勤を命じられている——この事実を必ず主治医に伝えてください。カルテに記載されれば、それは第三者による客観的な記録になります。そして就労不能である旨を明記した診断書を改めて取得し、会社にはコピーではなく写しを取ったうえで提出してください。安全配慮義務違反を問う際、「会社が病状を認識していた」ことの立証が要になります。 - 3. 賃金不払いは、労働基準監督署へ。傷病手当金も忘れずに
働いたのに賃金が支払われていない状態は、労働基準法24条違反として労働基準監督署の申告対象です。記録が乏しくても、まず相談してください。そして生活費については健康保険の傷病手当金があります。これは健康保険からの給付で、会社が拒否できるものではありません(健康保険法99条)。通算1年6か月まで、給与のおおむね3分の2が支給されます。うつ病の原因が業務にあるなら、労災請求という道もあります。
この体験談に近いケース
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この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。





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