「時給1000円は確実」の謳い文句が3分の1に…単価交渉を品質の話にすり替えられた話

フリーランスの受託契約という形態でネットでできる仕事を請け負って働いていたことがある。某有名ファッションブランドのオンラインショップの商品説明を任されていた。
タイピングはかなり早い方だし、ファッションにも詳しかったので事前の知識を詰め込む時間はほぼいらなかったし、商品画像が来ればすぐにライティング作業に取り組める状況であったが、どんなに高速でこなしても見合った報酬にならなかった。時給換算すると300円程度の報酬で、やっていられなかった。
これ以上時間短縮の策もないしサボってもいないのに歩合がおかしいから昇給して欲しいと掛け合うと、今度はお局が出て来て「他のみんなは文句も言わずにやっている」とか、「あなたの文章はここがもう少し違った言い回しもできた」とか、関係ない点をずらずら並べ立て始めた。
その後もいくら頑張っても昇給もしないしサポート体制もまったく改善しなかった。
募集および契約の時点では「普通にやっていれば時給1000円は確実」といった謳い文句だった。他のオンライン業務も請け負ったり、普通に社会人として会社でパソコンを使って働いたこともあるが、明らかにこちらのタイピング速度は上級レベル。
結局、消費生活センターに仲介してもらって異議申し立てした上で契約解除した。
みんブラ事務局の所見:令和6年11月からフリーランス新法が施行されている。「時給1000円は確実」は募集情報の的確表示の問題である。
フリーランスを守る法律は、令和6年11月から施行されている
この体験談は現在なら別の戦い方ができます。
理由を説明します。
令和6年11月1日、
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されました。
この法律は従業員を使わずに個人で業務を受託する人を守るためのものです。
主な内容を挙げます。
- 取引条件の明示義務 業務内容、報酬額、支払期日等を書面または電磁的方法で明示する
- 報酬の支払期日 給付を受けた日から60日以内のできる限り短い期間内
- 募集情報の的確表示 虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならない
- ハラスメント対策の体制整備 相談対応の体制を整える
- 中途解除等の事前予告 継続的な業務委託の解除は原則30日前までに予告する
ここで投稿者の記述を読み直してください。
「普通にやっていれば時給1000円は確実、といった謳い文句だった」。
そして実際は時給換算で300円でした。
これは募集情報の的確表示に真正面から関わります。
そのうえで、全体を確認します。
- フリーランスの受託契約という形態だった
- 業務はオンラインショップの商品説明のライティングだった
- 投稿者はタイピングが速く、ファッションの知識もあった
- それでも時給換算で300円程度だった
- 単価の改善を求めたところ、
- 「他のみんなは文句も言わずにやっている」と言われた
- 関係のない文章の指摘を並べ立てられた
- 昇給もサポート体制の改善もなかった
- 消費生活センターの仲介で異議を申し立て、契約を解除した
法律から見ると
フリーランス新法と労働者性が論点です。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 「時給1000円は確実」と表示しながら、実際は時給換算300円程度だった。 | フリーランス・事業者間 取引適正化等法12条 |
募集情報について虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならない。違反には勧告・命令・公表があり、命令違反は50万円以下の罰金。 |
| 報酬額の算定根拠や単価の改定手続が明示されていない。 | フリーランス・事業者間 取引適正化等法3条 |
業務内容・報酬額・支払期日等を書面または電磁的方法で明示する義務。単価が実質的に変動する仕組みは明示の対象となる。 |
| 単価改善の申出に対し、関係のない点を並べて拒んでいた。 | フリーランス・事業者間 取引適正化等法14条 |
ハラスメントに関する相談対応の体制整備が発注事業者の義務。申出をしたことを理由とする不利益な取扱いも禁止。 |
| 成果に対して著しく低い報酬が継続して設定されていた。 | 下請代金支払遅延等防止法4条 独占禁止法2条9項5号 |
買いたたきは禁止されている。取引上の優越的地位を利用した著しく低い対価の設定は優越的地位の濫用にあたり得る。 |
| 業務の進め方や納期が発注側に細かく管理されていた場合がある。 | 労働基準法9条 (労働者性の判断基準) |
諾否の自由、指揮監督の程度、時間的場所的拘束、代替性、報酬の労務対償性で判断。労働者と認められれば最低賃金法が適用される。 |
| 契約の解除にあたって事前の予告が置かれていない。 | フリーランス・事業者間 取引適正化等法16条 |
6か月以上継続する業務委託の解除・不更新は原則30日前までに予告が必要。理由の開示請求もできる。 |
| 「他のみんなは文句も言わずにやっている」と述べて申出を封じていた。 | フリーランス・事業者間 取引適正化等法14条 |
他者と比較して申出を萎縮させる言動は就業環境を害するものと評価され得る。相談したことによる不利益取扱いは禁止。 |
| サポート体制が整えられないまま業務量だけが継続していた。 | フリーランス・事業者間 取引適正化等法5条 |
受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、不当な経済上の利益提供要請等は継続的業務委託において禁止行為とされる。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
この発注元を糾弾する
この記事の要点を順に述べます。
まず時給300円という数字です。
ここで誤解されやすい点を先に押さえます。
フリーランスに最低賃金は適用されません。
最低賃金法は労働者を対象とする法律だからです。
ですから時給300円という数字だけでは、
直ちに違法とは言えません。
ではなぜこの件が問題なのか。
入口です。
「時給1000円は確実」と言われて始めたのです。
そして実際はその3分の1でした。
ここでフリーランス新法12条が効きます。
この条文は募集情報について虚偽の表示をしてはならず、誤解を生じさせる表示をしてはならないと定めています。
そして正確かつ最新の内容に保つことも求めています。
違反すれば公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省による助言、指導、報告徴収、立入検査、勧告、命令、公表が行われ得ます。
次に単価の仕組みです。
投稿者はこう書いています。
「どんなに高速でこなしても見合った報酬にならなかった」。
これは歩合の設計の問題です。
1件あたりの単価が低ければ、
速くこなすほど件数は増えても、
時間あたりの実入りは変わりません。
そして投稿者は自分の能力を疑っていません。
「明らかにこちらのタイピング速度は上級レベル」と書いています。
これは正しい自己評価でしょう。
ですから問題は単価そのものにあります。
そしてこの記事の核心に入ります。
申し出たときの対応です。
「他のみんなは文句も言わずにやっている」。
これは回答になっていません。
単価の妥当性を問われているのに、
他人の態度を持ち出しているのです。
そして次がこうです。
「あなたの文章はここがもう少し違った言い回しもできた」。
投稿者はこれを「関係ない点」と書いています。
正確な整理です。
品質の指摘と単価の交渉は別の話です。
これを混ぜるのは交渉を打ち切るためのやり方です。
そして令和6年11月以降、
発注事業者にはハラスメントに関する相談対応の体制整備が義務づけられています。
つまりお局が出てきて並べ立てるという対応は、
体制が存在しないことの表れです。
そしてこの体験談の価値を述べます。
投稿者は解決しているのです。
「消費生活センターに仲介してもらって異議申し立てした上で契約解除した」。
ここが重要です。
泣き寝入りせず、第三者を入れたのです。
個人と会社が直接やり取りすると、
力の差がそのまま結果に出ます。
ですが間に公的な機関が入ると話が変わります。
そして現在はフリーランス向けの専門窓口があります。
フリーランス・トラブル110番です。
これは厚生労働省の委託により第二東京弁護士会が運営しています。
弁護士に無料で相談でき、
和解あっせんという手続きも利用できます。
裁判より費用も時間もかかりません。
この体験談が書かれた時点ではまだなかった仕組みです。
いま同じ状況にある方はより有利な立場にいます。
もう一点、労働者性について触れておきます。
フリーランスという呼び方は契約の名称にすぎません。
実態が労働者であれば、
労働基準法も最低賃金法も適用されます。
判断の目安は次のとおりです。
- 仕事の依頼を断る自由があるか
- やり方を細かく指示されるか
- 作業する時間や場所が拘束されるか
- 自分の代わりに他人にやらせられるか
- 報酬が時間に対応しているか
この件では在宅で画像が来たら書くという形でした。
拘束は緩やかに見えます。
ですが納期や文体の指定が細かいのであれば、
労働者性が認められる余地もあります。
そのときは最低賃金の差額を請求できます。
最後に「他のみんなは文句も言わずに」という言葉に戻ります。
この言い方は広く使われます。
ですが成り立ちません。
理由は二つ。
第一に、他の人が言わないことは条件が妥当である証明になりません。
言えないだけかもしれません。
第二に、契約は一対一です。
他の受注者の条件はこの契約とは無関係です。
ですから比較を持ち出された時点で議論は終わっていると判断して構いません。
そして受注する側ができる備えを一つ挙げます。
契約前に「1件あたりの単価」と「想定される所要時間」を書面で確認することです。
時給いくらという表現は目安にすぎません。
実際に効くのは単価×件数です。
そしてフリーランス新法3条は報酬の額を明示することを義務づけています。
明示を求めることは正当な権利です。
渋る相手ならその時点で見送るのが賢明でしょう。
こういう取引は、続けなくていい
3つの理由を述べます。
- 1. 単価の話が品質の話にすり替わる相手とは、交渉できない
論点をずらすのは応じる気がないからです。次に交渉しても同じでしょう。時間をかけるだけ損になります。 - 2. 速くこなしても報われない設計は、努力では変わらない
単価が固定である以上、効率を上げても時給は上がりません。唯一変えられるのは単価であり、それが拒まれたのですから打つ手がありません。 - 3. 実績は残るが、時間は戻らない
ライティングの経験は資産です。ですが時給300円で積む必要はありません。同じ経験を正当な単価で積める先があります。
もし今、同じ状況にいるなら
- 1. 募集ページと契約条件を、保存する
「時給1000円は確実」のような記載はスクリーンショットで残してください。フリーランス新法12条の募集情報の的確表示を主張する根拠になります。3条の取引条件の明示がなければそれ自体が違反です。 - 2. 作業時間と件数を、毎日記録する
実際の作業時間を記録すれば時間あたりの報酬が計算できます。そして指示の細かさや納期の拘束も記録してください。労働者性が認められれば最低賃金法が適用されます。 - 3. 相談先は、フリーランス専用の窓口がある
フリーランス・トラブル110番(第二東京弁護士会・厚生労働省委託/無料)で弁護士に相談でき、和解あっせんも利用できます。買いたたき等は公正取引委員会、労働者性が疑われる場合は労働基準監督署です。
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