調査の日だけ優しくなる代表…手取り12万から「レクリエーション代」まで引かれた職場

都内にある犬の幼稚園(人間の子供のように、飼い主さんが仕事中の日中お預かりして、お散歩したり他の犬と遊ばせて、夕方お返しする施設)で働いていました。施設の代表は、雑誌の取材もよく受けていて、誌面ではにこやかな表情で掲載されている人です。
私は事務員として働いていたのですが、犬を直接お世話するトレーナーという方たちは、犬の扱いが非常に荒く、怒鳴ったり叩いたり蹴ったりしていました。結局3ヶ月程度で辞めましたが、その3ヶ月の間に3匹の犬が亡くなったのを目撃しました。
トレーナーの方たちは全員女性でしたが、一番下は専門学校を卒業したての若い子たちで、一番上のお局様のような40歳くらいの方のイビリが酷かったです。20歳の子がひとり、うつ病になって退職していきました。
話を聞いたご両親が労基署に通報し、係の方が会社に調査に来ました。代表はそのことを朝礼で被害者のように全員に報告し、その日一日だけは嘘のように犬にもトレーナーにも優しく接し、調査を潜り抜けました。次の日からは元通りです。
20歳の子たちは、たった12万円の手取りしかもらえず、どんなに実家が近くても寮生活を強いられ、ボロボロの寮に住んでいました。家賃や食費、休憩中のお茶代、謎の「レクリエーション代」まで、12万円からさらに引かれていたようです。
みんブラ事務局の所見:賃金から引けるのは法令に定めがあるか労使協定がある場合だけ。「レクリエーション代」は引けない。
賃金から引けるものは、法律と労使協定で決まっている
この体験談で最もはっきり違法と言える部分から取り上げます。
投稿者はこう書いています。
「家賃や食費、休憩中のお茶代、謎の「レクリエーション代」まで、12万円からさらに引かれていた」。
ここで労働基準法24条を確認します。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
これを賃金支払いの5原則といいます。
そして全額払いの原則には例外が二つしかありません。
- 法令に別段の定めがある場合(所得税、住民税、社会保険料、雇用保険料)
- 労使協定がある場合(事業場の過半数労働組合または過半数代表者との書面による協定)
つまり家賃も、食費も、お茶代も、レクリエーション代も、
労使協定がなければ引けません。
そして投稿者が「謎の」と書いている時点で、
説明がされていないことがわかります。
そのうえで、全体を確認します。
- 施設は犬を日中預かる保育園だった
- 代表は雑誌の取材も受ける人物だった
- トレーナーが犬を怒鳴り、叩き、蹴っていた
- 3ヶ月の間に3匹の犬が亡くなったのを目撃した
- 40歳くらいの職員によるイビリが酷かった
- 20歳の職員がうつ病になり退職した
- その親が労基署に通報し調査が入った
- 代表は朝礼で被害者のように報告した
- 調査当日だけ優しく接し、翌日から元通りだった
- 手取り12万円で実家が近くても寮生活を強いられた
- 家賃・食費・お茶代・レクリエーション代が天引きされていた
法律から見ると
賃金控除と動物愛護管理法が論点です。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 家賃・食費・お茶代・レクリエーション代を賃金から差し引いていた。 | 労働基準法24条1項 | 賃金は全額を支払わなければならない。控除できるのは法令に定めがある場合か労使協定がある場合に限られる。違反は30万円以下の罰金。 |
| 実家が近い職員にも寮生活を強いていた。 | 労働基準法94条 95条 96条 |
使用者は寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。寄宿舎規則の作成・届出と設備・安全衛生の基準が定められている。 |
| 手取り12万円からさらに控除が行われていた。 | 最低賃金法4条 労働基準法24条 |
最低賃金額に達しない賃金の定めは無効となり最低賃金額で計算し直される。控除後ではなく控除前の額で判定する。 |
| トレーナーが犬を怒鳴り、叩き、蹴っていた。 | 動物の愛護及び管理に 関する法律44条 |
愛護動物をみだりに殺傷した者は5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金。殴打・酷使等の虐待は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。 |
| 犬の預かりを業として行いながら、飼養管理が適切でない。 | 動物愛護管理法10条 21条 飼養管理基準省令 |
第一種動物取扱業は登録が必要で動物取扱責任者の選任が義務。令和3年6月施行の基準省令が飼養施設・従業者数等の遵守基準を定める。 |
| 特定の職員に対する継続的な嫌がらせが放置されていた。 | 労働施策総合推進法 30条の2 |
事業主には防止措置と相談体制整備の義務がある。うつ病により退職に至った事案は安全配慮義務違反としても問題となる。 |
| 労働基準監督署の調査の当日のみ、扱いを変えていた。 | 労働基準法101条 120条4号 |
監督官は帳簿書類の提出を求め、関係者を尋問できる。虚偽の陳述や帳簿の虚偽記載は罰則の対象となる。 |
| うつ病により退職した職員への配慮の措置が確認できない。 | 労働安全衛生法66条の10 労働契約法5条 |
心の健康の保持増進のための指針に基づく4つのケアの実施が求められる。業務による精神障害は労災の対象となり得る。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
この施設を糾弾する
この記事には二つの被害が書かれています。
犬と若い職員です。
順に見ていきます。
まず犬です。
「怒鳴ったり叩いたり蹴ったり」。
ここをはっきり申し上げます。
これは犯罪です。
動物の愛護及び管理に関する法律44条は、
愛護動物をみだりに殺し、または傷つけた者を5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金としています。
そしてみだりに殴打し、酷使する等の虐待行為も1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
犬は愛護動物です。
そして3ヶ月で3匹が亡くなっています。
因果関係はこの記述だけでは断定できません。
ですがこの頻度は異常です。
そしてこの施設は業として犬を預かっています。
つまり第一種動物取扱業の登録事業者です。
登録には動物取扱責任者の選任が必要で、
令和3年6月から施行された飼養管理基準省令が守るべき基準を定めています。
そして都道府県知事は報告徴収・立入検査を行い、勧告・命令、登録の取消しができます。
つまり労基署とは別の監督ルートがあるのです。
次に職員です。
ここで構造を見てください。
- 専門学校を出たばかりの20歳前後
- 手取り12万円
- 寮生活を強いられる
- その寮代も天引き
この四つが揃うと何が起きるか。
辞められなくなります。
手取りが少なければ貯金ができません。
寮に住んでいれば辞めた瞬間に住むところを失います。
ここで労働基準法94条を引きます。
使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。
そして投稿者はこう書いています。
「どんなに実家が近くても寮生活を強いられ」。
住む場所を選ぶ自由は私生活の中核です。
業務上の必要が説明できないのであれば、
この運用は正当化できません。
そしてこの記事の核心に入ります。
労基署の調査の場面です。
投稿者の記述を読み直してください。
「代表はそのことを朝礼で被害者のように全員に報告し、その日一日だけは嘘のように犬にもトレーナーにも優しく接し、調査を潜り抜けました。次の日からは元通りです」。
ここには三つの問題があります。
第一に、朝礼での報告です。
これは通報者を特定させる効果を持ちます。
うつ病で辞めた20歳の子の親が通報したことは、
全員にすぐわかります。
そして「次に言えば同じことになる」という空気を作ります。
第二に、「被害者のように」という語り方です。
調査を受けたのは是正すべき疑いがあったからです。
それを不当な扱いを受けたかのように語るのは、
問題の所在をすり替える行為です。
第三に、その日だけ態度を変えたことです。
これが最も悪質です。
変えられるのです。
つまり普段の扱いは意図的だったということです。
できないからそうしているのではありません。
見られていないからそうしているのです。
そして手取り12万円という数字を検証します。
ここで注意すべき点があります。
最低賃金の判定は手取りではありません。
控除前の所定内賃金で見ます。
そして算入しないものが決まっています。
- 時間外・休日・深夜の割増賃金
- 賞与など臨時に支払われる賃金
- 通勤手当、家族手当、精皆勤手当
つまり基本給を所定労働時間で割った額が判定の対象です。
手取り12万円ということは総支給は14〜15万円あたりでしょう。
ですがこの職場では家賃・食費・お茶代・レクリエーション代が引かれています。
これらは税や社会保険料ではありません。
ですから手取り12万円の実態はさらに低い可能性があります。
そして長時間労働があれば時間で割った額はもっと下がります。
ここは給与明細を見れば計算できる部分です。
最後にこの記事を書いた方について述べます。
この方は事務員でした。
つまり直接の被害者ではありません。
犬を扱っていたのはトレーナーで、
イビられていたのは若い職員です。
それでも3ヶ月で辞めたのです。
そして記録して書き残した。
ここは評価すべき点です。
見ていた人が証言することは簡単ではありません。
自分の被害ではないぶん、
「関わらなければ済む」という選択もあったはずです。
そして目撃者の証言は実務上重い意味を持ちます。
ハラスメントも動物の扱いも、
当事者だけの主張では水掛け論になりがちだからです。
もう一点、この業界を志す方へ申し上げます。
動物に関わる仕事は志望者が多い分野です。
専門学校も数多くあります。
そして「好きな仕事につけたのだから」という空気が生まれやすい。
その空気が低い賃金と長い時間を正当化します。
ここをはっきり申し上げます。
好きな仕事だからといって労働基準法の適用が変わることはありません。
そして動物の福祉という観点からも重要です。
疲れきった人、追い詰められた人が丁寧に動物を扱えるでしょうか。
この体験談はその答えを示しています。
職員の労働環境と動物の扱いはつながっているのです。
こういう施設は、今すぐ辞めていい
3つの理由を述べます。
- 1. 調査の日だけ変える相手に、改善は期待できない
指摘されれば直せるのに直さないのです。次に調査が入っても同じことをするでしょう。時間が解決しません。 - 2. 手取り12万から天引きされる構造では、抜け出せない
お金も住まいも会社に握られているのですから、辞める準備ができません。時間がたつほど不利になります。 - 3. 動物への扱いを見て平気でいられる職場は、人にも同じ
3ヶ月で3匹を目撃したのです。そして20歳の職員がうつ病になりました。対象が違うだけで同じ構造です。
もし今、同じ状況にいるなら
- 1. 給与明細の控除欄を、すべて確認する
所得税・住民税・社会保険料・雇用保険料以外の項目があれば、労使協定の有無を会社に確認してください。協定がなければ労働基準法24条違反で、差し引かれた分は請求できます。 - 2. 動物の扱いは、別の窓口がある
動物虐待の相談先は都道府県・政令市の動物愛護担当部署と警察です。第一種動物取扱業の登録の監督も自治体が行います。日時と状況の記録が重要になります。 - 3. 労基署への申告は、匿名でもできる
賃金控除・最低賃金・寄宿舎は労働基準監督署の管轄です。申告を理由とする不利益取扱いは労働基準法104条2項で禁止されています。ハラスメントは総合労働相談コーナー(無料・予約不要)へ。
この体験談に近いケース
この体験談に近いケースとして、あわせて読まれている記事です。
- 動物園飼育員は残業や雑用だらけ。意味不明な理由で上司が激怒。
- 違法な天引き。賃金からの控除は法令か労使協定がなければできません。
- お局様が嫌がらせをする心理。保育士が職場モンスターに疲弊。
- 正社員で時給500円のパン屋。暴力社長の「社員は家族」という言葉。
この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。





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