大学生の就活向け合同説明会で、学習塾企業のプレゼンに心惹かれ入社。入社後の数々のギャップに唖然…。

過去に就業したことのある某教育系企業(学習塾)での話です。その企業との出会いは、大学生を対象とした就活合同説明会でした。その会社のプレゼンされた内容は、「生徒のために情熱を注ぐ仕事」「充実した研修制度と魅力的な先輩社員たち」といったような魅力的なお話しばかりで、非常に心惹かれてしまいました。
その企業を第一志望として選考を受け、内定をいただきました。
入社してから、選考時の説明との数々のギャップに驚かされました。
この企業はブラックだ、と気付いた一番の要因は労働時間でした。契約上の労働時間は13:00~22:00ですが、9:00~0:00が当たり前の毎日でした。残業手当は一切支給されず、休日出勤は当たり前(もちろん手当はなし)。勤務表には、定時通りの時間の記入を強制されていました。
ブラックさを感じたもう一つの理由は、説明会のプレゼンで言われていた「充実した研修制度」は一切なく、入社初日から責任者の肩書きを与えられて現場を任されたことでした。何も知らない「責任者」に、当然不信感を覚える保護者の方も少なくなく、先輩に質問の電話をしても冷たくあしらわれたり嫌味を言われるばかりでした。
人によっては質問の内容には答えず関係のない嫌味を何分も言ってくることもありました。そんな環境でも売り上げを上げられなければ全社員の前に立って自分の不出来の理由の説明を求められたり、大声で社訓を叫ばされたり…。社内では常に辛辣な態度をとられて誰にも頼れず、顧客に迷惑をかける申し訳なさに苛まれながら、日々をなんとか生きる、非常につらい毎日でした。
みんブラ事務局の所見:説明会の「充実した研修制度」が嘘なら、労働基準法15条2項で即日辞められる。
説明会で語られたことと、入社後の実態
この体験談は、就職活動をしている学生に最も読んでほしい一件です。説明会での説明と実態の落差が、項目ごとに対応しているからです。
説明会で語られたのは、「生徒のために情熱を注ぐ仕事」「充実した研修制度と魅力的な先輩社員たち」。投稿者は非常に心惹かれ、その企業を第一志望として選考を受け、内定を得ました。
入社後の実態は、こうでした。
まず労働時間。契約上の労働時間は13時から22時。実際は9時から翌0時が当たり前の毎日。契約より6時間長い計算です。残業手当は一切支給されず、休日出勤も当たり前(もちろん手当なし)。
そして決定的なのがこれです。「勤務表には、定時通りの時間の記入を強制されていました」。
次に「充実した研修制度」。実際は研修制度は一切なく、入社初日から責任者の肩書きを与えられて現場を任された。当然、何も知らない「責任者」に保護者は不信感を抱きます。先輩に質問の電話をしても冷たくあしらわれたり嫌味を言われるばかり。人によっては質問には答えず、関係のない嫌味を何分も言ってくることもあった。
そして「魅力的な先輩社員たち」。その先輩たちに質問すると嫌味が返ってくる。売り上げが上がらなければ全社員の前に立って自分の不出来の理由の説明を求められ、大声で社訓を叫ばされる。
投稿者はこう締めくくっています。「社内では常に辛辣な態度をとられて誰にも頼れず、顧客に迷惑をかける申し訳なさに苛まれながら、日々をなんとか生きる、非常につらい毎日でした」。
法律から見ると、これは何にあたるのか
この職場で行われていたことを条文と突き合わせます。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 契約上13時〜22時のところ、実際は9時〜翌0時の勤務が当たり前だった。 | 労働基準法15条 労働基準法32条 |
労働時間は書面で明示すべき労働条件であり、事実と相違すれば労働者は即時に労働契約を解除できる(15条2項)。1日15時間の勤務は32条の上限を大幅に超える。 |
| 残業手当が一切支給されず、休日出勤にも手当がなかった。 | 労働基準法37条 労働基準法24条 |
時間外は25パーセント以上、深夜(22時〜翌5時)は25パーセント以上、法定休日は35パーセント以上の割増賃金が必要。0時まで勤務していれば深夜割増も発生している。 |
| 勤務表に、実際とは異なる定時通りの時間を記入することを強制された。 | 労働基準法108条 労働安全衛生法66条の8の3 |
使用者には労働時間を適正に把握する義務と賃金台帳の調製義務がある。虚偽の記録を作らせる行為は、割増賃金の不払いを隠蔽するもので極めて悪質。 |
| 説明会で告げられた「充実した研修制度」は存在しなかった。 | 職業安定法65条 労働基準法15条 |
労働者の募集にあたり虚偽の条件を提示することには罰則がある。説明会や面接での説明も、労働条件の認識を形成する重要な要素。 |
| 研修を受けないまま、入社初日から責任者として現場を任された。 | 労働施策総合推進法 30条の2 |
経験や能力とかけ離れた業務を命じることは「過大な要求」としてパワハラ類型に含まれる。 |
| 売上が上がらないと全社員の前で説明を求められ、大声で社訓を叫ばされた。 | 労働施策総合推進法 30条の2 |
他の労働者の面前での見せしめ的な叱責は「精神的な攻撃」にあたり得る。指導の必要性を超えた人格の否定と評価される。 |
| 質問しても冷たくあしらわれ、関係のない嫌味を何分も言われた。 | 労働施策総合推進法 30条の2 |
必要な情報を与えない対応は「人間関係からの切り離し」、嫌味の継続は「精神的な攻撃」に該当し得る。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
就職活動をしている方に、まず知っておいてほしいことがあります。説明会や面接での説明も、法的に無関係ではありません。
労働基準法15条は、労働契約の締結に際して労働条件を明示することを使用者に義務づけています。そして職業安定法65条は、労働者の募集にあたって虚偽の条件を提示する行為に罰則を定めています。これは求人票だけの話ではなく、募集活動全体に及ぶ規定です。
とはいえ実務上、説明会での口頭の説明を立証するのは容易ではありません。だからこそ労働条件通知書や雇用契約書が重要になります。この事例では契約上13時から22時と明記されていたのですから、実際に9時から0時まで働かせていたことは明示された条件との明白な相違です。労働基準法15条2項により、この方は即時に労働契約を解除できる立場にありました。2週間待つ必要すらなかったのです。
そして、この事例で最も悪質なのが勤務表への虚偽記入の強制です。
残業代を払わない会社は多くありますが、この会社は労働者本人の手で、実態と異なる記録を作らせていました。9時から0時まで働いた人に、13時から22時と書かせる。これは、会社が実際の労働時間を把握していなければできないことです。知らなかったのではありません。知ったうえで、記録の側を作り替えていたのです。
ただし、希望もあります。会社の勤務表が虚偽であっても、労働者側の記録があれば争えます。塾であれば、授業の時間割、生徒の入退室記録、保護者との連絡履歴、教室の施錠時刻、業務用メールの送信時刻——これらはすべて実労働時間を裏づける材料になります。
「生徒のために情熱を」で人を集める塾を糾弾する
ここからは、事務局として率直に書きます。
この会社が説明会で使った言葉を、もう一度見てください。「生徒のために情熱を注ぐ仕事」。
この言葉自体は美しい。問題は、この言葉が何を隠すために使われたかです。契約より6時間長い労働。残業手当ゼロ。研修なしでの責任者任命。全社員の前での吊るし上げ。これらすべてが「情熱」という一語の下に格納される仕組みになっています。
情熱があるなら時間は問わないはずだ。情熱があるなら手当を求めないはずだ。情熱があるなら研修がなくてもやれるはずだ。労働条件への疑問が、すべて情熱の不足として跳ね返ってくる。投稿者が「顧客に迷惑をかける申し訳なさに苛まれながら」と書いているのは、この装置が作動した結果です。研修をしなかったのは会社なのに、保護者への申し訳なさは本人が背負っている。
そして「充実した研修制度」という嘘の悪質さについて。これは単なる誇大広告ではありません。研修があるという前提で入社を決めた人に、研修なしで責任者をやらせた。結果、保護者からの信頼を損ない、本人は自責の念に苛まれ、先輩からは嫌味を言われる。会社が省いたコストの請求書が、新入社員一人のところに全部届いている構図です。
大声で社訓を叫ばせるという慣行にも触れておきます。これに実務上の意味はありません。売上が上がらない理由の分析にも、改善にも、何ら寄与しない。あるのは「屈服の儀式」としての機能だけです。全社員の前で不出来の理由を説明させ、社訓を叫ばせる。それを見ている他の社員も同時に躾けられる。一人を晒すことで、全員を黙らせる。効率のよい統制です。
最後に、この会社を選んだ投稿者について。この方には、何ひとつ落ち度がありません。説明会で語られた内容に心を惹かれ、第一志望として真剣に選考を受け、内定を得た。学生にできることを、すべてやっています。嘘をついた側が悪いのであって、嘘を見抜けなかったことは罪ではありません。
就活生・新入社員が見抜くためのチェックポイント
この事例から得られる教訓を、実践的な形にまとめます。入社前に確認できることを挙げます。
- 「充実した研修制度」は、必ず中身を聞く。何日間、誰が、何を教えるのか。配属はいつか。具体的に答えられないなら、制度は存在しない可能性が高い。
- 労働条件通知書を必ず受け取り、保管する。この事例で「契約上13時から22時」と明記されていたことが、実は最大の武器になります。書面がなければ、後から争う足場がありません。
- 「みなし残業」「裁量労働」の有無と時間数を確認する。固定残業代があるなら、対象時間数と金額、超過分が別途支払われるかを必ず確認してください。
- 離職率と平均勤続年数を聞く。答えたがらない、あるいは若手しかいない会社は要注意です。
そして、すでに入社してしまった方へ。労働基準法15条2項があります。明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できます。通常の退職に必要な2週間も、会社の承諾も要りません。さらに就業のために住居を変更していた場合、契約解除から14日以内に帰郷するなら、使用者が帰郷旅費を負担しなければなりません(労働基準法15条3項)。新卒で上京した方には、特に重要な規定です。
いま同じ状況にいる人が、今日のうちにやるべき3つのこと
- 1. 労働条件通知書と、実際の勤務時間を突き合わせる
契約書に書かれた時間と、実際に働いた時間——この2つを並べることが、すべての出発点です。労働条件通知書、雇用契約書、説明会でもらった資料、求人票のスクリーンショットを保管してください。そして毎日の出退勤時刻をメモしてください。勤務表に定時通り書くよう指示されているなら、指示どおり書いたうえで、本当の時刻を別途記録します。その指示自体をメールやチャットで受けているなら、必ず保存を。 - 2. 塾ならではの記録を押さえる
授業の時間割、生徒の入退室記録、保護者への連絡履歴、教室の施錠・解錠時刻、教材作成ファイルの更新日時、業務メールの送信時刻。これらは会社が作った勤務表よりも客観的に労働時間を示す資料になります。9時に教室にいたこと、0時に施錠したことが分かれば、「13時から22時」という記録の虚偽は明らかです。 - 3. 15条2項による即時解除を検討し、監督署へ
明示された労働条件と実態が違うなら、労働基準法15条2項により即時に辞められます。割増賃金の不払い、違法な長時間労働、勤務表の虚偽記入の強制は、いずれも労働基準監督署の申告対象です。虚偽の募集についてはハローワークや労働局の需給調整事業部門も窓口になります。退職後でも、時効の3年以内なら未払い賃金は請求できます。
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この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。





「就活の会社説明会でキラッキラのプレゼンに騙されて入社した結果。」に1件のコメントがあります
Yuna
(2018年3月12日 - 8:29 PM)本当にとんでもない!と思ってしまいました。表に出てくる責任者が採用されたばかりでまだ研修中であるべきのような人だったら、お客さんの方も不信感を抱いて、結局業績も下がってしまいそうなのですが…。そういうところも気にせず、とにかく人を働かせようというのがブラックであるというところなのかもしれませんね。