自動販売機会社のルート補充の仕事は漏れなく長時間労働。精神病で倒れて退職。

9年前の話になるが、自分はある自動販売機会社に勤めていた。
入った当初は、まだ試用期間もあり普通に帰らせてもらっていた。会社に入って半年が過ぎ、一人で仕事を任せられると急に大変になり、夜の十時近くまで働いていた。そんなこんなで働いていたのだが、ある日上司から、まだ売り切れのとこがあったり、ルート巡回も遅いと言われた。それから上司に言われた通り朝の6時半~夜の12時まで働いた。
自動販売機の仕事と言うのは、売り切れを出さないように仕事をするのだが、自動販売機の台数も多く、一日では全部回れなかった。残業代も定時過ぎてから2時間分しかつかなかった。それでも自分は上司に言われた通り、朝の6時半から夜の12時まで働いた。まだ、最初の一年間は、体調も良かったのだが、2年目になり6時半から夜の12時までの時間をがんばった。
そして、自分にある症状がおとずれた。精神病にかかってしまったのである。
自分は体力には自信があってサッカーもしていて大丈夫だと思ったのだが、精神的に参ってしまい、仕事も1か月休職した。病院で治療したものの1か月後には仕事に戻ったのだが、自分の精神が立ち直りきれず、また休職して退社してしまった。辞めた後、新聞で自分と同じ業種のある大手企業の自動販売機会社でも、同じ病気で退社し自ら命を落とすことになった従業員の記事をみた。
今は病気も治りかけて別の仕事につけているが、前の自動販売会社の時に、無理せずに仕事ができていたら良かったと今でも思っている。
みんブラ事務局の所見:1日17時間半で残業代は2時間分。「終わらない量の仕事」は暴言より人を壊す。
この職場の何がブラックだったのか
この体験談の異常さは、一つの数字に集約されています。朝6時30分出勤、深夜0時退勤。拘束時間17時間30分。しかもこれが2年間続いています。
単純に計算してみましょう。所定労働時間を8時間とすると、1日あたりの時間外労働はおよそ9時間30分。月に22日勤務したとすれば、時間外労働は月200時間を超える計算になります。いわゆる過労死ラインとされる月80時間の、2倍を優に超える水準です。それでいて支払われる残業代は「定時を過ぎてから2時間分」だけ。働いた時間の8割近くが、賃金の計算から消えていたことになります。
そして注目してほしいのが、この長時間労働が怒鳴られたり脅されたりして生じたものではないという点です。上司から「まだ売り切れのところがある、ルート巡回も遅い」と指摘され、投稿者は言われたとおりに朝6時半から深夜0時まで働くようになりました。暴言もなければ、机を叩く上司も出てきません。ただ「終わらない量の仕事」と「終わらせろという指示」だけがあった。これは厚生労働省が示すパワハラ6類型のうち「過大な要求」にあたる構造です。殴られなくても、人は壊れます。
自動販売機のルート補充という仕事の性質も、この構造を後押ししています。売り切れを出さないことが至上命題で、担当する自販機の台数は一日では回りきれない。つまり設計上、定時では終わらないノルマが課されていたわけです。本人が「体力には自信があってサッカーもしていた」と書いているとおり、体力の問題でも根性の問題でもありません。仕事量の設定が破綻していたのです。
そして投稿者は精神疾患を発症し、1か月の休職を経て復帰したものの立ち直りきれず、再び休職して退職しています。さらに退職後、同じ業種の大手自動販売機会社で、同じ病気で退社した従業員が自ら命を落としたという記事を新聞で目にしたと書かれています。これは一社の問題ではなく、業界に広がった構造だということです。
法律から見ると、これは何にあたるのか
この勤務実態を、条文と突き合わせて整理します。
| 体験談で実際に行われていたこと | 抵触する条文 | 何が問題なのか |
|---|---|---|
| 朝6時30分から深夜0時まで、1日17時間30分の勤務が2年間続いた。 | 労働基準法32条 労働基準法36条 |
労働時間の上限は1日8時間・週40時間。36協定を結んでも時間外は原則月45時間・年360時間まで。特別条項をつけても単月100時間未満・複数月平均80時間以内が上限で、この勤務はその倍以上にあたる。違反は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金。 |
| 残業代が「定時を過ぎてから2時間分」しか支払われない。 | 労働基準法37条 労働基準法24条 |
時間外労働には実際に働いた全時間について25パーセント以上の割増賃金が必要。支給に上限を設けて頭打ちにする運用は、賃金の全額払いの原則にも反する。 |
| 深夜0時まで勤務しているのに、深夜分の割増が支払われていない。 | 労働基準法37条4項 | 午後10時から翌午前5時までの労働には25パーセント以上の深夜割増が必要。時間外割増とは別枠で加算されるため、22時以降の2時間分は本来さらに上乗せされる。 |
| 1日17時間半の勤務のなかで、まとまった休憩が取れていない。 | 労働基準法34条 | 労働時間が8時間を超える場合、使用者は少なくとも1時間の休憩を労働時間の途中に与え、かつ自由に利用させなければならない。売り切れを出さないためのルート巡回に追われる状態は、休憩を与えたことにならない。 |
| 月80時間を大きく超える時間外労働が続いていたが、医師の面接指導は行われなかった。 | 労働安全衛生法 66条の8 |
時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者には、事業者が医師による面接指導を受けさせる義務がある。この体験談の勤務実態であれば、毎月確実に対象になっていた。 |
| 2年目に精神疾患を発症し、休職と復職を経て退職に至った。 | 労働者災害補償保険法 労働契約法5条 |
長時間労働による精神障害は労災認定の対象で、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に判断の枠組みが定められている。また使用者は労働者の心身の健康に配慮する安全配慮義務を負う。 |
※ 引用した条文は2026年8月時点のものです。実際の判断は個別の事情によります。
表を見れば分かるとおり、労働時間の上限、休憩、割増賃金、健康確保措置という、労働基準法の根幹をなす規定のほぼすべてに抵触しています。とくに残業代の扱いは悪質です。「定時後2時間分しかつかない」というのは、実際の労働時間を把握したうえで支給額に蓋をしていたということですから、単なる計算ミスではなく意図的な運用です。
ここで、多くの人が誤解している点を明確にしておきます。「みなし残業代に含まれている」「営業手当に含まれている」という説明は、それだけでは有効になりません。固定残業代が認められるためには、基本給と固定残業代部分が明確に区別され、対象となる時間数と金額が明示され、その時間数を超えた分は別途支払われる、という条件を満たす必要があります。2時間分で頭打ちにして残り7時間半を切り捨ててよい根拠は、どこにもありません。
また、この時間数であれば労災認定の可能性が現実的にあります。厚生労働省の実務では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2か月から6か月にわたり1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働があった場合、業務と発症との関連性が強いと評価されます。この職場の水準はそれをはるかに超えています。精神障害についても「心理的負荷による精神障害の認定基準」が定められており、極度の長時間労働は重要な評価要素です。労災請求には時効がありますが、「もう辞めたから関係ない」ということはありません。
終わらない量の仕事を課す会社を糾弾する
ここからは、事務局として率直に書きます。
この体験談には、罵声も暴力も出てきません。だからこそ、たちが悪いと私たちは考えます。
この会社がやったのは、一日では絶対に回りきれない台数を担当させ、「売り切れを出すな」という達成不可能な条件を課し、あとは本人の責任感に丸投げするということです。「朝6時半から深夜0時まで働け」とは誰も言っていない。ただ「遅い」と言った。そして真面目な人間が自分で睡眠時間を削って埋め合わせるのを、黙って見ていた。
この手口の卑劣さは、責任の所在を労働者側に移し替えている点にあります。本人が勝手に早く来て、勝手に遅くまでやっている、という体裁が作れてしまう。だから残業代も「定時後2時間分」で足りることになる。しかし業務量を決めたのは会社であり、ルートを組んだのも会社であり、「遅い」と評価したのも会社です。労働時間を実質的に決定していたのは、最初から会社の側です。
そしてもう一点、指摘しておかなければならないことがあります。この業界では、こうした働き方が「正社員」の求人として募集されているという事実です。正社員という言葉に安定を期待して入った人が、17時間半の拘束と2時間分の残業代を受け取る。雇用形態の名称と実態が、これほど乖離している例もそうありません。
投稿者が最後に書いた一文を、もう一度読んでください。「前の自動販売会社の時に、無理せずに仕事ができていたら良かったと今でも思っている」。これは本人の後悔として書かれていますが、私たちはそう受け取りません。無理をさせたのは会社です。一日で回れない台数を割り当て、遅いと言い、残業代に蓋をした側が負うべき責任を、9年経ってなお本人が背負い続けている。この構図こそが、この体験談の最も理不尽な部分です。
なぜ、この職場は今すぐ辞めるべきなのか
理由を、順に数字で示します。
第一に、失っている金額です。仮に時給1,300円として、支払われていない時間外を月180時間、割増率1.25で計算すると、月およそ29万円、年間およそ350万円。深夜割増を加えればさらに増えます。2年間で700万円規模の労働を無償で提供していた計算になります。これは節約でも副業でも取り返せる金額ではありません。
第二に、健康の問題です。毎日17時間半拘束されるということは、通勤と食事と入浴を差し引けば睡眠に充てられる時間は4時間前後しか残りません。それが2年続けば、体力に自信のある人間でも壊れます。実際この方は「体力には自信があってサッカーもしていて大丈夫だと思った」と書いたうえで、精神疾患を発症しています。精神疾患は再発しやすく、回復には年単位の時間がかかることがあります。同じ業界で命を落とした人がいるという事実も、この危険が誇張ではないことを示しています。
第三に、この業界の構造は個人の努力では変えられないという点です。売り切れを出さないという要求は、自動販売機のビジネスモデルそのものに組み込まれています。担当台数を減らすか、人を増やすか、売り切れを許容するか。そのいずれかを決められるのは経営側だけで、現場の一人が頑張って解決できる問題ではありません。構造が変わらない場所で個人が耐え続ければ、折れるのは必ず個人の側です。
いま同じ状況にいる人が、今日のうちにやるべき3つのこと
- 1. 実際の労働時間を、自分の手で記録する
この種の職場は、そもそも正確な労働時間を記録していません。だからこそ自分の記録が決定的な証拠になります。毎日の出発時刻と帰宅時刻をメモしてください。直行直帰であれば、スマートフォンの位置情報履歴、社用車のドライブレコーダーや運行記録、納品先での作業記録、業務用アプリのログイン履歴が労働時間を裏づけます。未払い賃金の請求権の時効は当分の間3年です。 - 2. 体調の記録を残し、早めに医療機関へ
眠れない、食欲がない、休日も気分が晴れないといった変化は、日付つきでメモに残してください。そして早い段階で心療内科や精神科を受診し、長時間労働の実態を医師に伝えてください。カルテと診断書は、労災申請でも、傷病手当金の請求でも、会社との交渉でも、最も強い証拠になります。「まだ我慢できる」段階で受診しておくことに意味があります。 - 3. 労働基準監督署に申告する。辞めた後でもできる
違法な長時間労働と割増賃金の不払いは、労働基準監督署の申告対象です。労災の請求も労働基準監督署が窓口で、すでに退職していても請求できます。申告を理由とする不利益な取扱いは労働基準法104条2項で禁止されています。退職そのものは、期間の定めのない雇用なら民法627条1項により申し入れから2週間で成立します。「ルートを引き継げる人がいない」は、あなたが残る理由になりません。
この体験談に近いケース
この体験談に近いケースとして、あわせて読まれている記事です。
- 私は”うつ病”でクビになりました。悪化する症状、切り捨てる会社、詰んでいく人生。
- うつ病で退職を申し出る→会社「皆、抗うつ剤とか飲んでるから」と拒否。
- 「残業代60時間分が消えた」ブラック企業の実態…トイレで弁当生活から労働省通報までの全記録
- 建設業(ゼネコン)の施工管理がブラックすぎる…。毎日12時間以上・週6日勤務の激務。
この記事を読んで「うちの会社も同じだ」と感じた方は、ページ上部のブラック度から5段階で投票してください。投稿された体験談とあわせて、職場の実態を可視化していきます。




